『バディミッション BOND』任天堂×ルビーパーティ×村田雄介 豪華布陣で生み出された名作アドベンチャー【クリアレビュー】

おはようございます。いちごうです。今回は、2021年1月29日に発売された「バディミッション BOND」のクリアレビューとなります。熱く、それでいてシリアスなストーリー展開や、キャラクター同士の軽快な会話劇など、任天堂タイトルとしては珍しいプレイ感覚に熱中してプレイできました。

『バディミッション BOND』のポイント

任天堂×ルビーパーティ×村田雄介による超豪華布陣

シリアスストーリー展開とキャラクター同士の軽快な会話劇が魅力

キャラクターデザインは『アイシールド21』・『ワンパンマン』の作画で知られる村田雄介さんが担当

『アンジェリーク』・『金色のコルダ』等を手がけるコーエーテクモゲームスのルビーパーティが開発

目次

ゲームの世界観・テーマについて

 まずは、今作をほとんどご存知ない方、購入を検討はいるものの詳しくは知らない方もいると思うので、ゲームの世界観とあらすじにについて紹介しておきましょう。

 物語のおもな舞台は、世界的なショービジネスの中心地である“ミカグラ島”と言う、海に浮かぶ孤島です。この島では、“DISCARD”という犯罪組織が暗躍しており、組織に狙われた人物は、首筋に“死の刻印”を刻まれ、自我を失い狂暴化してしまう、と言われています。このミカグラ島に潜む犯罪組織“DISCARD”の謎を暴くため、潜入捜査チーム「BOND」が結成されます。プレイヤーは「BOND」のメンバーとして、DISCARDの真実を追求していきます。

 そんな物語を彩る潜入捜査チーム「BOND」を結成するのは、一癖も二癖もあるワケあり4人組です。まずは、殉職した義理の父親の夢を継いで警察官になったルーク。ある事件の捜査中に、父の死に犯罪組織「DISCARD」が関わっていることを知り、真相を突き止めるべく組織を追っていきます。続いては、宝石を専門に狙う、世界的な大怪盗アーロン。DISCARDに誘拐された女性をきっかけに、彼も組織の秘密を探っています。ゲームの物語はこの2人のバディをメインに展開していきます。

 「BOND」にはもう2人在籍していて、ひとりは、フレンドリーでおちゃめな元忍者のモクマ。彼は、現在『ニンジャジャン』というヒーローショーに出演していてあっけらかんとしていますが、その実、謎も多い人物です。もう1人は、変装と知的犯罪の達人で詐欺師のチェズレイ。各界の大物をはじめ、数多くの人間を破滅に追い込んできた、トリッキーな人物です。ゲームは、このルーク・アーロン・モクマ・チェズレイの凸凹チームで進行していきます。

元忍者モクマ(可愛い)

 また、ネタバレにならない程度に少しだけ紹介しておくと、今作ではタイトルの「BOND」と言う言葉からもわかるように、「人と人との関係性」つまり「絆」がテーマとされています。今作は、いわゆるブロマンスの作品ですので、基本的には男性同士の仲の良さや、関係が強く描かれています。ですが、ルークくんが物語の序盤から「絆」という言葉を多用するように、人との関わり方について、丁寧に描いた作品でもあります。それは、血縁関係・家族関係のような直接的な関係だけではなく、たとえ、そのような繋がりがなくても、人は「絆」を持つことができる、と言う強いメッセージです。そのため、冒頭のコメディタッチの雰囲気とは裏腹に、ゲームの後半はハードでシリアスな展開が連続します。人との繋がりを持つことが不得意な4人が偶然に出会い、互いを救い救われる奇跡のような「絆」=BONDを描いていきます。人生の局面にいる誰かを救うような、大切な作品であると思います。

豊富なゲームシステムについて

 続いてはゲームパートについてです。ゲームは大きく分けて「ノベルパート」と、「捜査パート」「潜入パート」に別れています。各ミッションを開始しノベル部分を経た後は、プレイヤー自身が2Dマップ上で行先を選択して聞き込みを繰り返す「捜査」パートと、実際に3Dキャラクターを動かしながら、敵地に潜入していく「潜入」パートへと展開していきます。ミッションをクリアするごとに、続きのメインストーリーが、章ごとに解放されていくので、イメージとしては、アニメや海外ドラマでいう「一話・二話」のように進行していきます。

 また、「捜査」と「潜入」には、「ヒーローゲージ」と言う画面右上の数値を消費していくのですが、操作が長引いたり潜入でミスをすると、ゲージが減少していきます。ミッションクリア時に残っている「ヒーローゲージ」が多いほどにクリアランクが上がり、サブエピソードが解放されていきます。

ノベルパート

 このように紹介すると、会話を糸口に知恵を絞る「捜査パート」と、3Dの「潜入パート」と、がゲームの中心であるという印象を持たれると思います。けれど実際プレイしてみると、今作はノベルゲームとしての作り方が、相当に徹底されています。と言うのも、ミッションを選んですぐに始まる、ノベルパートの比重が非常に高く、全体の構成としては、ノベルパートが七割、捜査パートが二割、潜入パートが一割のような比率となっています。個人的には、ノベルゲームが好きですし、幸い物語も面白く先が気になる展開なので、気になりませんでしたが、潜入への期待値が高い方は、ご注意ください。

 また、わかりやすく物語を伝えるための手段なのでしょうがないとは思いますが、物語の展開についていけないことがないように、会話中に何度もルークが話を繰り返すことがあります。その内容の確認が、どう考えても直前のテキストだったりするので、ルークくんの過剰なまでの丁寧さに驚きました。もちろん、ノベルゲームに慣れていない方にとっては、展開に悩まないようになっているとも言えます。アクションが苦手なノベルゲームファン、ノベルゲームをプレイしたことのないゲーマーにとってもおすすめです。

捜査パート

 ノベルパートのあとは、ノベルで聞いた会話をヒントに聞き込みを行う「捜査パート」となります。画面のUIも非常に直感的ですし、捜査パートは、基本的にオーソドックスなアドベンチャーゲーム的なプレイ感となっています。「捜査パート」では、2Dで表現されたフィールドマップから、ミッションに関係のありそうな場所や人を選択していきます。無制限に捜査できるわけではなく、各ミッションごとに「行動ゲージ」が割り当てられているので、双六のようにフィールドを移動して、適切なヒントを見つけていきます。また、手がかりを持っている人々も、誰にでも心を開いてくれるわけではないため、どのバディで聞き込みをすべきか、メンバーの個性や特徴をきちんと把握しておく必要があります。例えば、モクマは子供の扱いに慣れているので、子供の聞き込みにはモクマを連れていく、のように、キャラクターの性格と捜査対象を見極めていく必要があります。

 また、聞き込みで入手した情報によって、「潜入パート」でのヒントが大きく変わってくるので、丁寧な聞き込みがSランククリアには欠かせません。間違えて、ヒントが一つとかになってしまうと、ヒーローゲージは低くなっていく一方なので、辛い時間になります。一点気になったのは、ミッションごとの難易度設定が曖昧な点です。一つ前のミッションで話を聞いていれば簡単にクリアできたにもかかわらず、突如、捜査のヒントが少なく、直感に頼るような場面もありました。徐々に、難易度が上がるのではなく、難易度設定がまちまちなので、少し不満を覚えたポイントです。

 また、本当によくできているゲームだからこそ気になってくる部分ですが、時折なぜこの人はここまで情報を知っているのだろうと、思うことがありました。ヒントを与える存在だから、と言えばそこまでですが、ゲームの完成度が全体的に高いので、逆にこのようなディテールの甘さも悪目立ちしてしまうな、と思います。

潜入パート

 「捜査パート」のあとは「潜入パート」です。アドベンチャーゲームと言えば、多くの場合はポイントクリック形式や、ノベル形式が多いですが、今作では3Dのパートが用意されています。先ほど紹介した「捜査パート」の手がかりを元に、事前に計画を練った潜入ルートを進行していきます。

 正直、体験版やPVでも感じていた部分ですが、この「潜入パート」が今作の唯一の難点だと思います。と言うのも、3Dのグラフィックや、挙動は丁寧に作られているのですが、実際にプレイヤーが行うのはスイッチを押したり、QTEで攻撃を避けたり、のような単純な行動のみだからです。

 もちろん、ゲーム前半ではミッションごとに仕掛けも変わるので、楽しみではあるのですが、そのバリエーションも非常に少ないので、後半ではこのミッションは「潜入」カットしてもよかったのでは、と思うこともしばしばありました。先ほども紹介したように、物語が非常によくできているので、なおのこと、この危機的な状況でこんなにゆっくり謎解いていていいのか!?とむず痒い思いをしていました。

 また、重要なのは「潜入パート」はあくまでも、アクションパートではない、と言う点です。事前に得た知識とバディの力で、時間をかけて進んでいく「潜入」なので、パンチやキック等のアクションは一切ありません。もちろん、だからこそ、ゲームが苦手な方でもストーリーの面白さを存分に楽しめると思いますが、もう少し調整が必要だったポイントだと思います。

ゲームを奥深くするキャラクター&サブエピソード

 続いては、今作最大の魅力の一つでもある、キャラクターとそれに付随するサブエピソードについて紹介していきます。ゲームには、すでに紹介したメインのBONDの4人以外にも、たくさんの人々が登場します。ゲームをクリアし終わった上で思うのは、BONDの4人はもちろんですが、街に住む人々のキャラクターとしての魅力です。

 ミカグラ島で出会う人は、数十名ほどいるのですが、ゲームの途中で出会ったキャラクターに終盤で再開したり、別々に出会った人たちが仲良くしていたりと、細かく設定されています。先ほど、聞き込みを行う「捜査パート」では、相手の特徴に合わせて、バディを決める必要があると紹介しました。このことは、バディを考えることと同時に相手のことを考えることでもあります。この人は、犬を連れているからルークで話しかけよう、などと思っていると、いつの間にかミカグラ島の住人のことを好きになっている自分に気づきます。

 また、今作では、サブキャラクターのひととなりや、キャラクター同士の関係性をより強固にする要素として、サブエピソードがあります。メインストーリーミッションのクリアするたびに、ご褒美としてサブキャラクターに焦点をあてた「サイドエピソード」と、BONDチームの絆に焦点をあてた「バディエピソード」が解放されていきます。

 ミッションの合間に読めるショートストーリーのようなもので、より深く「バディミッション」の世界観や、キャラクター同士の関係性を楽しめます。全てのサイドストーリー・バディストーリーを開放するには、全ミッションでSランクを獲得しなければならないので、意外と大変です。

高クオリティのマンガ的表現

 また、映像等を見ていたことがあればお気づきかと思いますが、今作は会話シーンでは3Dグラフィックではなく、いわゆる立ち絵が採用されています。とりわけ特徴的なポイントとして今作では、アドベンチャーゲームでありがちなテキストと立ち絵のみが表示されるのではなく、ストーリーや会話の展開時には躍動感のあるコミック調の表現が取り入れられています。立ち絵のみでの会話パートもありますが、時折挟まれる漫画のコマ割りのような演出はプレイを飽きさせることなく、ノベルゲームに慣れていない人にも優しいデザインになっていました。

また、演出としてオノマトペも多用されており、3Dの「潜入パート」などでも、マンガ的表現は徹底されています。背景とキャラクターもビジュアルイメージが統一されているので、キャラクターのみ高品質、と言うこともなく、ゲーム全体のビジュアルが安定しています。

◇どんなゲームが好きな方におすすめ?

 続いては、このレビューも見た上で購入すべきか悩んでいる方に向けて、もう少し詳しく、過去の名作と合わせて紹介しておきましょう。あるいは、「バディミッション」をクリアした方が、次に遊ぶゲーム選びの参考としても確認いただければと思います。

ミステリーアドベンチャーゲームとして

「逆転裁判」・「ウィッシュルーム 天使の記憶」

 まずは、「バディミッション BOND」のミステリーアドベンチャーとしての魅力です。今作の「捜査パート」と「潜入パート」は非常に緻密に設計されており、他のゲームで言い表すと、ミステリーゲームの「調査と推理」とゲームプレイの感覚は近しいと思います。ですので、聞き込みを繰り返しヒントを集める「逆転裁判」のようなゲームが好きな方は、少しノベル部分の長さが気になるかもしれませんが、おすすめです。あるいは、任天堂の隠れた名作「ウィッシュルーム 天使の記憶」もミステリーアドベンチャーとしては極上ですが、少し内省的な物語や、手書き風のグラフィックも含めて、「バディミッション」をプレイしていて思い出したタイトルです。

 「バディミッション BOND」は、ノベル形式のアドベンチャーゲームとしては、クリアまで25時間程度と極端に長いわけではありませんが、演出やゲーム性の類似として、「逆転裁判」、「ウィッシュルーム 天使の記憶」と比べると、ゲームのボリュームも際立つように思います。ゲーム自体はそこまで派手では無いものの、魅力的な物語と地道なゲームデザインに魅力を感じるのであれば、「バディミッション BOND」は間違いなくオススメです。

3Dアドベンチャーゲームとして

「Detroit: Become Human」・「AI:ソムニウムファイル」

 また、「潜入パート」の3Dの探索は、いわゆる3Dのアドベンチャーゲームとプレイ感覚が近くデザインされています。例えば、PS4の名作の一つ、「Detroit: Become Human」では、プレイヤーはアンドロイドを操作し、膨大なルートに分岐する重層的な物語を体験できます。「バディミッション」では物語の分岐等はありませんが、ゲーム中のQTEや、謎解きの感覚はかなりの面で共通しています。

 また、ニンテンドーSwitchの隠れた名作、「AI:ソムニウムファイル」も、「バディミッション」とかなりプレイ感覚が似ています。「AI:ソムニウムファイル」でも、物語を追うノベルパートと、参考人の夢の中に入り込むアクションパートとを行き来してゲームを進行していきます。個人的には、3Dのアドベンチャーゲームがゲームジャンルの中でも、かなり好きなのですが、これらの少し冗長ながらも説得力のある3Dアドベンチャー好きにとっては、「バディミッション BOND」はマストバイな傑作だと思います。

ルビーパーティーの新作として

 ちなみに、今作の発売は任天堂ですが、開発を手がけているのはコーエーテクモです。

任天堂とコーエーテクモは、これまで数多くの作品を共同で作ってきました。たとえば、コエテクの「信長の野望」などのシミュレーションゲームチームとは、「ファイアーエムブレム風花雪月」。「無双」や「ニンジャガイデン」チームとは、「ゼルダ無双」「FE無双」を共同で作り上げています。今作「バディミッションBOND」は、コーエーテクモの中でも、「アンジェリーク」・「遙かなる時空の中で」といった乙女ゲームを手がけてきたルビーパーティが担当しています。

 ルビーパーティといえば、「アンジェリーク」・「遙かなる時空の中で」と言うタイトルからもわかるように、基本的には女性向けゲームを中心としたラインナップです。けれど、2017年には『進撃の巨人 死地からの脱出』と言うアドベンチャーゲームを制作したりと、開発の幅を拡大しています。

 「バディミッション BOND」についても、純粋にアドベンチャーゲームとしての面白さはもちろん、女性向けゲームとしての面白さも上手く組み合わされており、非常に満足できるゲームとなりました。「捜査」と「潜入」そして、奥深いストーリーだけでもゲームとして成立していますが、ブロマンスとしてのキャラクターの掘り下げなども素晴らしく、今後の展開にも大いに期待したいと思っています。また、この作品を機会に、ルビーパーティの作品の注目度も高まるでしょうし、個人的にも今後のタイトルへの期待が大幅に向上しました。

◇結語

いかがでしたでしょうか。

クリア時間はメインストーリーでおおよそ25時間程度、バディエピソード・サブエピソードも合わせると、30時間以上遊べるボリューム感となっています。

 実際プレイしてみると、体験版のプレイレビューでも指摘したように、ゲームの中心はノベルパートが占めており、ユーザーによってはプレイを控えるかもしれません。ですが、目まぐるしく変化する物語と、その変化にプレイヤーがノれるように機能するキャラクターの魅力は素晴らしかったと思います。

 また、後半になるにつれて、「潜入パート」のギミックも見知ったものが多くなり、退屈に感じる部分もありましたが、コミック調で小気味よいグラフィック表現の楽しさもあり、熱中してプレイできました。

「絆」と言うありふれたテーマでありながら、ユーザーに発見を与えられるような優れた作品であり、任天堂×コーエーテクモの新たな名作として、ユーザーの記憶に残る作品になると確信しています。

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