『メトロイド ドレッド』任天堂からの挑戦状【クリアレビュー】

 圧倒的難易度と異様なまでの充実感。『メトロイド ドレッド』は、19年越しの完全新作に相応しい任天堂からの挑戦状だったと思います。多くのシリーズファンも同じように感じているのでは無いでしょうか?

 さて、今回は、19年越し発売された2Dメトロイドの完全新作『メトロイド ドレッド』のレビューとなります。この後詳しくレビューしていきますが、中には実はシリーズに触れたことがない、あるいは評判を見て難易度が高そうで購入を躊躇している、という方もいると思います。

 実際『メトロイド ドレッド』はシリーズファンからすれば名作であることは間違いありません。とはいえ、この後紹介していくように予想を超える難易度ですので、新規ユーザーに向けて「傑作だから買うべき!」と単純にオススメするのも厳しいと思います。

と言うわけで、この記事では『ドレッド』の詳細なレビューと合わせて、初心者の方にも向けて、シリーズ解説・システムの紹介的な内容も含めていければと思います。

『メトロイド ドレッド』のポイント

近年の任天堂タイトルのスタンダードを打ち砕く圧倒的難易度

「探索」・「戦闘」・「スニーキング」と流動的に変化していく2D横スクロールの究極

メトロイドヴァニアの歴史を更新するチャレンジングなゲームデザイン

安定したFPS・分かり易いなUIなど、追求される快適なゲームプレイ

目次

◇ Chapter.1 メトロイドとは?

・ メトロイドってどんなゲーム?

 さて、基本からおさらいしておきますが、このオレンジ色のキャラクターは「メトロイド」ではありません。公式にも書かれていますが、意外とこのキャラクターを「メトロイド」だと思っている方は多いと思います。

シリーズの主人公は、オレンジ色のスーツを着こなす賞金稼ぎ「サムス・アラン」。「メトロイド」シリーズでは遠い未来の宇宙を舞台に、生物の未来を賭けた死闘を繰り広げるサムスの姿が描かれます。

 シリーズの第1作は1986年、今から35年前に「ファミリーコンピュータ ディスクシステム」でスタートしました。1986年なので、任天堂的に言えばゼルダと同期ということになります。

この第1作はNintendo Switch Onlineに加入していれば遊ぶことができるのですが、『ドレッド』がシリーズ初プレイという方は、ぜひ一作目も触れてみることをオススメします。

というのも、今作はシリーズ1作目でありながら、迷路のようなステージ・武器を強化させながら探索範囲を広げていくアドベンチャー要素など、今も追求されている「2D探索アドベンチャー」の基礎が完成しているためです。

『メトロイド』(1986年)

 また、冒頭でも言ったように今回レビューしていく『メトロイド ドレッド』はシリーズの19年ぶりの完全新作となっています。とはいえ19年の年月の間、シリーズが一切、更新されていなかったということではありません。

FPSに舵をきった『メトロイド プライム』シリーズや、この後もたびたび紹介する1992年の『メトロイドⅡ』のリメイクなどシリーズ自体は制作されてきました。

『メトロイド』(1986年)

 ですが、そのような派生作品を抜いた2Dメトロイドの完全新作という意味で、19年ぶりとなります。開発チームのコメントでも「ドレッド」は15年以上の年月構想されてきた作品であると強調されていますし、言葉通りの意味で「2D探索アドベンチャー」の集大成的なタイトルとなっています。

◇ Chapter.2 探索、そして恐怖

・「探索」と「謎解き」

 まずは『ドレッド』にも共通するシリーズの必須要素「探索」について見ていきましょう。今作で初めてプレイした方は驚いているかもしれませんが「メトロイド」シリーズは、一見古臭い「2Dの横スクロールアクション」が基本となっています。

ですが、『メトロイド』が面白いのは、このオーソドックスな「横スクアクション」に、武器の強化や・迷路のような探索要素、隠し扉などのギミックが詰め込まれている点です。

 実際「2Dの横スクロールアクション」とは言いましたが、マリオシリーズのようにステージをクリアしていくわけではありません。文字通り縦横無尽に広がるマップを、アイテムを活用しながら奥へと進んでいくことがゲームプレイの中心となります。

ですので、プレイしている感覚としては『マリオ』と言うよりも『ゼルダの伝説』などに近く「探索」と「謎解き」が主となっています。この「探索」を進めることで、装備・アクションを強化し、探索範囲が拡大していくゲームプレイは「2D探索アドベンチャー」と言うジャンルを生み出しました。

 そんな経緯もあっての『ドレッド』なので、19年ぶりの新作として、「探索」部分がどのように強化されているのか、ファンならずとも気になるところです。

ですが、さきほどシリーズ一作目でほぼほぼ完成していると言ったように、実は『ドレッド』でも基本的な作りは、大きく変更・追加はありません。もちろん、マッピングやソート機能など細かな配慮が行き届いており、探索をより手軽に楽しめるようには改良されてはいますが、おおむねのゲームプレイは過去作が踏襲されています。

・緊張感のバランス

 では、『ドレッド』では何が新しく取れ入れられているのでしょうか。今作の最大の変化は、CMや公式サイトでも強調されている「恐怖」のテーマです。

というより、実際にプレイし実感した面白さは「恐怖」それ自体というよりも、それによって生まれたゲームプレイの多様さです。

 どういうことかと言いますと、今作では探索エリア内の一部で「E.M.M.I.」という調査ロボットが登場します。この「E.M.M.I.」が中々に凶悪で、サムスを見つけるとエリアの隅々まで追い詰めてきます。

捕まると99パーセントの確率で即死するという強烈さで、慣れるまではかなりの恐ろしさがあります。開発者コメントでも

「メトロイドにとって「恐怖」というテーマは15年以上前から構想していた、いわば因縁ともいえるようなテーマです。」

https://www.nintendo.co.jp/switch/ayl8a/report/vol1/index.html

と今作において「恐怖」が重要な要素であったことは語られています。

 とはいえ、実際にプレイを進めていくと実感できるのですが「E.M.M.I.」の行動パターンは把握できるようになりますし、捕まるペナルティもほぼありません。

ですので、個人的には「E.M.M.I.」に対して恐怖を感じることはありませんでした。ですが「E.M.M.I.」が存在することで生まれた緊張感のバランスこそが完璧だったと思います。

 詳しく紹介していきますと、今作のゲームプレイを大きく分けて「探索」と、後で紹介する「戦闘」、そして対「E.M.M.I.」の「スニーキング」の3つのプレイスタイルに別れます。

「スニーキング」と言うほどでは無いのですが「E.M.M.I.」に見つからないように、どのルートで進むべきか、と言う「探索」とはまた違うプレイスタイルが求められています。

 ゲーム中はこの「探索」・「戦闘」・「スニーキング」が流動的に変化していくので、プレイに全く飽きが来ないのです。ゲームプレイ自体はそこまで入り組んでいないですし、ボタン操作さえ覚えれば謎解き等も単純です。

それにも関わらず、プレイヤーの緊張と緩和を操作する、飽きさせないゲーム展開の連続は、まさに職人芸だなと思います。

◇ Chapter.3 加速する死闘

・圧倒的に強化されたアクション

 また、「ドレッド」で強化された最大の要素はなんと言ってもアクションです。今作のサムスには「E.M.M.I.」を撃退するための新規武器「オメガキャノン」を初め、自身を透明化するファントムクロークなど多数のアクションが追加されています。

また、基本動作ともいえますが、ゲームのスピード感を向上させるスライディングや、高速移動を可能にする「フラッシュシフト」など、軽快なゲームプレイを実現させる新規要素も多数存在しています。

 これらの新規要素の基礎となっているのは、今作のゲームデザインで徹底されているスピード感にあります。プレイ済みであれば実感できると思いますが、今作は全てのアクションが従来の作品と比べて数段加速しています。

もちろん、フレームレートの安定化などの理由もありますが、開発者インタビューにおいても

「できる限りシームレスにアクションがつながることを目指して制作しています。」

https://www.nintendo.tw/switch/ayl8a/report/vol5/

であるとか、

「滑らかな動きで敵キャラクターを蹴散らしながら走り抜ける爽快感を体験してみてください。」

https://www.nintendo.co.jp/switch/ayl8a/report/vol9/index.html

など、今作の開発において爽快感・スピード感が重視されていたことが語られています。

 戦闘システム自体は、2017年に発売された「メトロイド サムスリターンズ」で採用された「メレーカウンター」というカウンター攻撃が基礎となっていますが、サムスのアクションが徹底的に磨き上げられたことで探索だけでなく、戦闘においても攻防の幅がさらに広がりました。

・割とエゲツない難易度設定

 また、今作の中でも最大に評価できるかつ、最大に批判されているポイントとして、この加速した戦闘システムを活用した高難易度のボスバトルがあります。

 「探索」フィールド内の通常の敵はメレーカウンターでほぼ一撃で倒すことができますし、「E.M.M.I.」についても通常時は太刀打ちできませんが、「オメガキャノン」で一掃できます。

 ですが、エリアごとに登場するボスモンスターについては、そのような小手先の技は使えず、完全に自肩のプレイスキルで戦う必要があります。これが本当に強い。

確かに、よけられない攻撃はないですし、培ってきたアクションを駆使すれば勝てない敵はいません。ですが、目と手が追いつかない、ということが多発します。

 アクションゲームが得意なユーザーであれば、まさに願ったり叶ったりな難易度設定だとおもいますが、新規ユーザーにとっては衝撃の難易度だと思います。

個人的には、そんじょそこらの死にゲーよりもよっぽど苦戦しました。横スクロールアクションの初心者は、正直かなり辛いと思いますので、Nintendo Switch Onlineで一度過去作に触れてみるなどをおススメします。

◇ Chapter.4 更新される物語

・ダークで奥深い世界観

 また、シリーズの大きな魅力としてダークなサイエンスフィクションのストーリーも忘れてはなりません。

一つひとつの作品、特に初期の作品ではゲーム内で細かくストーリーが語られることはないのですが、短いテキストとムービーで表される奥深い世界観は任天堂の中でも随一だと思います。

『スーパーメトロイド』(1994年)

シリーズのディレクター・プロデューサーを務める坂本さんも、スーパーファミコンの「スーパーメトロイド」の開発時に目指したものとして、

「映像作品と言ってもらえるようなものをつくりたい、という気持ちがすごくありました。」

https://topics.nintendo.co.jp/article/52725f7e-8bb8-11e7-8cda-063b7ac45a6d

とインタビューで語っています。最新作『ドレッド』でもこの傾向は強調されていまして、量はそれほどではないものの「映像」で物語は語られていきます。

・最新作にして最新の物語

 また、今作では「2Dメトロイド」シリーズの最新の物語として、第四作『メトロイド フュージョン』の後の物語が紡がれていきます。

ネタバレは控えますが、サムス自身の隠された秘密、かつて敵だった生物による危機の回避など「メトロイド」に求めるストーリーと言う意味ではかなりの密度で構成されていました。美しく厳かさすら感じる世界観は、やはり「メトロイド」ならではだと思います。

 一応ゲームの冒頭で過去作のダイジェストは流れるので、ストーリー的に迷うことは無いと思います。ですが、考察等も含めてストーリーを楽しむのであれば過去作のプレイは必須と言えます。

もちろん、先ほどまでに紹介してきた「探索」や「アクション」の要素とは独立していますので、今作から初めて遊ぶ方も難易度は別として、楽しめるとは思います。

◇ Chapter.5 横軸を超えて

・「メトロイドヴァニア」に影響されすぎ…?

 ここまで今作の強化された魅力について紹介してきました。まさか、2021年にもなって『メトロイド』が「2Dアクションゲーム」の頂点に再び立つとは、、と慄くくらいのアクションの洗練さです。

個人的にも本当に名作だと思いますし、今年のゲームオブザイヤーに輝くのではないか?と思うほど海外メディアからは大絶賛の嵐です。

 ですが、少しだけ違和感というか思ったことを紹介させていただきます。それはこれって、探索要素は必要だったのか?という疑問です。

『ori and the blind forest』

 少し余談になりますが、近年のインディーゲーム界隈で主流の一つになっている「ゲームジャンル」として「メトロイドヴァニア」というものがあります。

本稿を見ている方には今更説明不要かもですが、例えば、Steamのような大手のプラットフォームでは、「メトロイドヴァニア」でタグが作成されるぐらいには、数多くのタイトルが発売されています。

ゲームとしては、まさに「2Dの探索アドベンチャー」のことを意味していまして「メトロイド」とコナミが制作してきた「キャッスルヴァニア」シリーズに影響を受けたゲームジャンルのことを指します。

 個人的に「メトロイドヴァニア」は大好きなジャンルなので、有名どころの作品は大概プレイしているのですが、近年の作品の共通点として「探索」よりも「スピード感のある戦闘」に重きが置かれているという特徴があります。

単純な横軸のアクションではなく、360度のカウンター、空中戦、高難易度など多くのインディータイトルが新しい挑戦を繰り広げています。

『Touhou Luna Nights』

 それ自体は、ジャンルの進化というか、より深く面白い作品が増えているので大歓迎です。ですが、端的に思ったのは「ドレッド」は「メトロイドヴァニア」の潮流に影響を受け過ぎてないか?という疑問です。

確かに『ドレッド』は他の「メトロイドヴァニア」を過去にするくらいの力強さを持っていますが、アクションの部分では今作は抜きん出て傑作だと思います。ですが、その分シリーズが重視してきた「探索」要素が薄くなってしまっているな、という印象を受けました。

 前作「サムズリターンズ」から感じていたのですが、今作で追求されたアクションの魅力を体験して実感しています。それはマイナスな評価というより、単純に最近のゲーム市場の変化を感じたポイントです。

◇ Chapter.6 安定したゲームプレイ

 またプレイしていて目を見張るのは、安定したゲームパフォーマンスとそれを支えるテンポの良いゲームデザインです。まず、パフォーマンスですが、ゲームの解像度は高く、フレームレートも基本的には安定しているのは素直に素晴らしいポイントです。

一部、雨の振るシーンなどはかくつくことありましたが、ゲームのパフォーマンスは安定しています。最近のSwitchタイトルはファーストタイトルであっても、解像度・フレームレートともに安定しないことが増えてきていますが、今作はその心配は無用です。

 また、何より素晴らしいのはテンポが良いという点です。というのも、ここまで見ているように、今作は基本は2D横スクロールで構成されていますが、ムービーパートは通常のムービーと同様に自由にカメラが動きます。

ですが、その間に一切ロード等は含まれず、全てがシームレスに構成されていきます。ステージの移動や特定のポイントに到達すると、間髪入れずに、カメラが切り替わるムービー演出はゲームのスピード感を損なわないため、没入感を向上させます。

また、全てがリアルタイムで構築されているからこそ、緊張感や予想のできなさ、ゲームの躍動感が強調されていると思います。

 個人的に、唯一気になったのは、少しだけ長めなローディング時間です。ゲームオーバー時は、死亡演出やリスタートの確認・実際のロードなどの工程が挟まるのですが、これらを合計した実時間で10秒程度かかります。

通常のゲームであれば、ほとんど気にならない時間ですが、今作はいわゆる死にゲー級にリスタートが多いので、この部分は少し気になりました。ですが、基本的に昨今のSwitchタイトルの中では抜群のパフォーマンスでしたので、その辺を懸念している方は迷わず購入をオススメします。

◇ Chapter.7 ゲームボリューム

 最後に、プレイ時間やクリア後要素についても紹介しておきましょう。クリア時間としては基本的にプレイスキルに寄るというか、、どれだけ死なないかに左右されます。

すでにタイムアタック系の動画もアップされていますが、最速で2時間を切っている動画もありますので、早ければ数時間でクリアも可能です。

 ですが、普通にプレイするなら多少ゲームに自身のあるユーザーで8~10時間程度。地道にクリアを目指すなら15時間程度はかかると思います。これを短いと思うユーザーもいると思いますが、『メトロイド』シリーズにしてはむしろ長い部類です。

シリーズは一作目がそうであったように、一周目をクリアした後は隅々までの探索と、タイムアタックがゲームの中心となります。ですので、タイムアタックを目指す場合は一生遊べますが、そうで無い方でもやり込み等を含めて15時間〜20時間は問題なくプレイできると思います 個人的には普通に後半で死に倒したので、クリアに12時間くらいかかってしまいました。

 無駄な繰り返し等も少なく、強化されていくサムスの疾走感そのままにエンディングまで到達できるので、その意味でもゲームボリュームは適切だったと思います。

結語 任天堂からの挑戦状

いかがでしたでしょうか。

 いやはや、思っていた何倍を歯応えのあるゲームプレイに驚きっぱなしでした。個人的にプレイ中は、この高難易度は世間で荒れるのでは?と思っていました。実際、あまりの難易度調整にマイナス意見もあるようですし、その批判も最もだと思います。

 その販売戦略的なマイナス部分はあれど、難易度選択等も用意せずに、そのままで2021年に発売する度胸というか、任天堂の決断力は凄いと思います。

要するに、一見さんお断りというか、北米市場のメトロイドファンが望んでいるメトロイド像を狙いうつゲームデザインはクールだなと思います。

 とはいえ、「メトロイド」シリーズが国内市場で然程影響力がないとはいえ、もう少し難易度の高い作品であることを事前に知らしめておいた方がよかったのでは?とは思います。

例えば、自分が小学生低学年で今作を誕生日プレゼントなどで買っていたらと思うと、なんともいえない気持ちになります。まあ、その場合最強ゲーム戦士になる可能性もありますが、若干その辺の配慮はあってもよかったかもなと。

 そう言っても。これほどの安定感のあるゲームデザインは付け焼き刃では無い長年の積み重ねあってのものだと感じます。シリーズファンはマストで、今回初めて興味を持った方も任天堂からの挑戦状として今作からメトロイドの世界に入ってみてもいいかなと思います。

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