【クリアレビュー】『ゼルダの伝説』伝説の始まりであり神髄

おはようございます、いちごうです。

今回は1986年にリリースされた初代『ゼルダの伝説』のクリアレビューとなります。本作は、ゲーム史において重要なマイルストーンとなった作品です。そのゲームデザインは、プレイヤーに探索の自由と挑戦する喜びを提供し、ゲーム業界において数多くのフォロワーを生み出しました。現代のゲームと比べると、説明不足な点やシンプルさも目立ちますが、そのシンプルさの中に潜む奥深さは、今でも多くのプレイヤーを魅了しています。この作品が築いた基盤の上に、現在まで続く『ゼルダの伝説』シリーズの成功が成り立っていると言えるでしょう。ではレビューにはいっていきましょう。

『ゼルダの伝説』のポイント

ゲーム史において重要なマイルストーン

「アクションアドベンチャー」のジャンルを開拓した画期的なタイトル

『ブレス オブ ザ ワイルド』にも通ずる自由度

現代の視点では課題もあるが完成したゲームデザイン

目次

「ゼルダの伝説」とは何か

 それでは、作品概要から紹介していきましょう。皆様ご存じかとは思いますが、シリーズ第一作のレビューですので、作品の基本的な情報からおさらいします。

 まず、重要なことなのですが、この緑の服を着た少年は「ゼルダ」ではありません。2Dだったり、猫目だったり、端正な顔立ちだったり、作品によって姿は異なりますが、彼は「ゼルダ」ではなく、プレイヤーが操作するキャラクター・リンクです。

 シリーズの基本的な物語は、この緑色の衣服に身を包んだリンクを操作し、危機に陥ったハイラル王国、そして王国の王女・ゼルダを救うというものです。自分の力を知る由もない少年、世界を救った後も剣の修行を重ねる青年、見習いの汽車運転士など、作品ごとにゲーム冒頭のリンクの状況は様々ですが、ハイラルの大地を舞台として、時間や次元を超える冒険を繰り広げていきます。

 シリーズ第一作がリリースされたのは、いまから約40年前の1986年です。当時のファミコン市場では、まだまだ「アクション」や「アーケードの移植」が主流でしたが、本作は「アクションアドベンチャー」のジャンルを開拓した作品としても画期的なタイトルです。

 次の項目で紹介するように、同時代にリリースされた『ドラゴンスレイヤー』(日本ファルコム、1984年)や『ハイドライド』(T&E SOFT、1984年)からの影響もありつつ、広大なフィールドや難解なダンジョン、剣やアイテムを用いる戦闘デザインは本作によって、一般化されることとなりました。ゲームプレイ自体は、いまプレイすると「単純そのもの」に思えるかもしれません。ですが、その「単純」と思えるスタンダードを築いた作品こそ、初代「ゼルダの伝説」なわけです。

 約40年前のタイトルですので、どうしてもシステム的には現代の基準では不便な部分も多く、全てのユーザーにオススメできない部分もあります。とはいえ、いまでは「単純」や「当たり前」と思えるアドベンチャーゲームのスタンダードを打ち出した作品として、ビデオゲーム史に燦然と輝く名作です。

「ゼルダの伝説」の誕生

コンピューターRPGの影響

 続いて、もう少し詳しくシリーズの誕生について見ていきましょう。『ゼルダの伝説』の歴史が始まったのは、今から約40年前の1986年です。その誕生については諸説ありますが、当時ディレクターを務めた任天堂の宮本茂さんや手塚卓志さんによれば、1980年代当時流行していたコンピューターRPGや映画の影響を受けて企画されたと言われています。

SEGA SG1000

 1980年代中頃のゲーム市場は、大きく分けて3つのカテゴリーが存在していました。一つは、1970年代末から人気を博していたアーケードゲーム市場。二つ目は、1983年に発売された任天堂のファミリーコンピュータ、セガのSG-1000などを中心とする家庭用ゲーム機市場。三つ目は、1970年代末から1980年代初頭にかけて多数のメーカーから発売されたパーソナルコンピュータ、当時の言い方をするならマイコン市場です。

Apple Apple Ⅱ

 それぞれの市場は互いに影響し合いながら、それぞれの消費形態に合わせたタイトルが生み出されており、たとえば1985年のアーケードゲーム市場では、高いハードウェア性能を活かした『ハングオン』(セガ、1985年)や『スペースハリアー』(セガ、1985年)のような作品も生まれていました。

『スペースハリアー』(セガ、1985年)

 一方で、現在の視点から考えると想像し難いですが、1980年代前半の家庭用ゲーム機市場は、まだまだ成長途上のマーケットでした。そもそも、ファミコンは開発にあたって、アーケード市場で人気だった『ドンキーコング』(任天堂、1981年)を見劣りなく遊べる性能が目標にされていましたし、そのコンセプトに沿うように初期のソフトラインナップはアーケードからの移植作品が大半を占めていました。

 そんな中で、独自の進化を遂げていたのが、マイコン市場です。当時のマイコンの性能は、アーケード市場において主流だった「アクション」を再現するには適していませんでした。そのためマイコン市場では、高速な処理の必要が無いアドベンチャーやロールプレイングが数多くリリースされることになります。特に、Apple Ⅱ向けの『ウィザードリィ』(サーテック、1981年)や、PC-8801(ピーシーハチハチマルイチ)の『ドラゴンスレイヤー』(日本ファルコム、1984年)や『ハイドライド』(T&E SOFT、1984年)など、ファミコンが覇権を握る前の買い切り型ゲーム市場として多くの作品が提供されていました。

『ハイドライド』(T&E SOFT、1984年)

 『ゼルダの伝説』でディレクターを務めた宮本茂さんも、この潮流の中で「コンピューターRPG」をファミコン向けに制作したいと考えるようになったと云います。特に、マイコン市場で高い人気を誇っていた『ドラゴンスレイヤー』や『ハイドライド』。併せて、1984年の映画『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』からも多大なインスピレーションを受け、宝探しをテーマにした冒険ゲームを制作し、これが初代『ゼルダの伝説』として結実しました。

・ディスクシステムによって達成されたアクションアドベンチャー

 ここで一つの疑問が生まれます。なぜ、ファミコン市場ではRPGやアドベンチャーゲームのような長時間プレイ可能な作品が少なかったのでしょうか?そして、なぜ『ゼルダの伝説』はファミコンの限られたハードウェア性能でリリースすることができたのでしょうか?

『ドラゴンスレイヤー』(日本ファルコム、1984年)

 その背景には、ファミコンとマイコンの違いが関係しています。先ほども紹介したように、初期のファミコンは、アーケードゲームの移植が多く、何日も時間をかけて少しずつ進めるのではなくリプレイを前提とする作品が大半を占めていました。また、初期のファミコンのカートリッジはバッテリーバックアップに対応しておらず、セーブ機能も有していませんでした。そのため、プレイデータを保存する手段としてはパスワード方式が一般的であり、1986年にリリースされた『ドラゴンクエスト』(1986年、エニックス)でも「ふっかつのじゅもん」という形式で「進捗の保存」が行われていました。

 一方、マイコンでは、処理速度の面でRPGやアドベンチャーゲームがラインナップを占めていましたが、内蔵セーブ機能を有するハードウェアもあり、長期間のゲームプレイを支える重要な役割を担っていました。

ファミリーコンピュータ ディスクシステム

 そこで決定的な役割を果たしたのがディスクシステムです。『ゼルダの伝説』はファミリーコンピュータ用の作品ですが、プレイにはディスクシステムという周辺機器が必要でした。このディスクシステムは、カートリッジではなく磁気ディスクを使用しており、当時の一般的なカートリッジの約3倍の容量を持っていました。結果として、ディスクシステムの容量によって、広大なフィールドや、多数のアイテムを用いる戦闘、印象的なBGM、なによりセーブ機能が搭載され『ゼルダの伝説』はリリースが可能となりました。

 初代『ゼルダの伝説』は、フィールドの探索、自由度の高いアイテム収集、そして難解な謎解き要素を備え、アクションアドベンチャーというジャンルを確立しました。発売から数十年経った今でも、その革新的なデザインは色褪せず、ゲーム史において重要な位置を保ち続けています。

「ゼルダの伝説」のゲームメカニクスについて

最初期のオープンワールド型ゲーム

 ここからは、もう少し具体的にゲームメカニクスについて見ていきます。以降のシリーズでも一貫していますがゲームでは、探索要素に満ちたゲームデザインが特徴です。初代『ゼルダの伝説』でも、これらのゲーム要素は確立しており「フィールド」と「ダンジョン」の探索によってゲームを進めていきます。

 ゲームマップは1画面分の固定画面方式で表示され、画面端に到達すると次の画面にスクロールする仕組みです。フィールドは横16画面・縦8画面の全128画面で構成され、森林や山岳などの様々な地形が広がり、各エリアにモンスターが配置されています。

 操作はシンプルで、Aボタンで剣を使い、Bボタンでアイテムを使用するという基本的な操作がベースとなっています。とはいえ、ゲーム開始時のリンクは、身一つで何も持っていないので、どこに行くにもボコボコにされてしまいます。そのため、最初は行動範囲も限られていますが、ゲームが進行するにつれて「ブーメラン」「爆弾」「弓矢」など、謎解きに必要なアイテムを取得することでリンクの能力が拡張され、徐々に探索範囲も広がっていきます。どこに行くにも危険だらけのフィールドですが、随所に隠された洞窟やアイテム。ちょっとした遊び心のある登場人物など、128画面分に及ぶフィールドは、それ以上のワクワク感を提供しています。

 また、初代『ゼルダの伝説』は、最初期のオープンワールドゲームとして評価されている点も重要です。これは、プレイヤーが初期装備であってもフィールドのほとんどの場所にアクセスできる自由度の高さに起因しています。また、各ダンジョンの攻略順もプレイヤーの選択に委ねられており、この自由度がオープンワールドゲームの先駆けとして考えられています。実際、シリーズの総合プロデューサーである青沼英二さんは、初代『ゼルダの伝説』のシームレスなゲームプレイと、2017年にリリースされた『ブレス オブ ザ ワイルド』のプレイ感覚が似ていることに言及しています。青沼さんはインタビューにおいて「広い世界にドーンと投げ出される感覚は、初代『ゼルダの伝説』の時代の作り方に戻ったようだ」と語っています。

・試行錯誤とヒラメキで活路を開くダンジョン

 一般的にアクションRPGと呼ばれる作品では、キャラクターの能力を示すレベルやスキルなどの概念が導入されています。先ほど紹介した『ハイドライド』は最初期のアクションRPGではありますが、主人公にレベルが設定されており、敵を倒すことで経験値を獲得し、キャラクターが成長していくシステムが採用されていました。

 一方で『ゼルダの伝説』では、リンクにレベルの概念は用意されていません。プレイヤーは、剣や盾のアップグレードやアイテム収集、体力最大値の上昇、そしてなによりプレイヤースキルの向上によってゲームの難所を乗り越えていきます。特に、ゲーム進行において不可欠なのはアイテム収集です。特に、ボムやロウソクといったアイテムは、壁を壊したり、暗闇を照らしたりするために使用され、探索の幅を広げる重要な役割を果たします。

 ダンジョンには、フィールドと同様に強敵が潜んでおり、シリーズの特徴である謎解きが随所に散りばめられています。以降の作品では、特定のフロアで行ったアクションが別のフロアにも干渉するような、フロアを横断する謎解きへと発展していきます。一方で、本作では、敵を全て撃破する、オブジェクトを移動させる、壁に爆弾を仕掛けるといった、あくまでも単一のフロアで完結する謎解きで構成されています。

 では、謎解きは簡単か?と問われると、一筋縄でいかないのが面白いところです。たとえば、以降のシリーズでは爆弾を仕掛ける場所のヒントとして、壁にひびが入っていたり、剣で斬りつけたときに特定の音が鳴るなど、手がかりが用意されていましたが、本作ではそのような、視覚や聴覚に訴えるヒントがありません。一見理不尽にも思えますし、実際ヒントがほとんど無いような謎解きもあり試行錯誤を繰り返す必要があります。ですが、多くの場合で、コンパスやダンジョンマップと照らし合わせることで、壁の奥に続くエリアがあることが推測できるなど、謎解きとして一定程度フェアに構成されています。

 これらの謎解きや、それによってプレイヤーに提供される爽快感と達成感は、ゲームの大きな魅力の一つであり、プレイ体験の中核を成しています。試行錯誤とヒラメキを駆使する謎解きは、確実に受け継がれている作品の代名詞ともいえる要素です。

『ゼルダの伝説』の難易度調整について

 『ゼルダの伝説』シリーズは、約40年の歴史の中で20作品近くのタイトルがリリースされ、ユーザー層も拡大してきました。現在の多くのゲームには、チュートリアルや「ユーザーの動線」を明確にする指針が用意されていますが、初代『ゼルダの伝説』にはそのようなサポートがほとんどありません。

 このため、現代のプレイヤーからは初代『ゼルダの伝説』に対して「理不尽だ」という評価も見られます。特に「最初からできることが多すぎる」点や、「少ないヒントの中で試行錯誤を繰り返す」という部分は、現代のゲームに慣れたプレイヤーにとっては戸惑う要素が多いように思います。

 しかし、初代『ゼルダの伝説』が意図的に難易度を高く設定したわけではありません。例えば、1984年にアーケード向け、1985年にファミコン向けにリリースされた『ドルアーガの塔』は、基本的にノーヒントで進行し、攻略本がほぼ必須の難易度でした。同様に『ハイドライド』も全般的に不親切な設計でした。

 これらのアクションRPGの草分け的な作品と比較すると『ゼルダの伝説』は、一定の難易度設定と、極度の理不尽さは感じさせないバランスが取れた作品と言えます。ゲーム内にも一定のヒントがありますし、当時のディスクシステムは、お店で書き換えが可能だったのですが、その場で取扱説明書のようなミニブックが付属していました。ミニブックでは、ゲームの世界観をはじめとして、プレイヤーが何をしてゲームを進行していくのかゲームの進行についての基本的な方向性を得ることができました。現代の視点では説明不足に感じる部分があるかもしれませんが、しっかりと市場の同ジャンル作品を研究し、チャレンジングさとバランスを併せ持つゲームとして提供されていました。

結語

 いかがでしたでしょうか。

 現代の視点から見ると、初代『ゼルダの伝説』のインターフェースやコンテンツは非常にシンプルです。画面上の情報は限られており、インベントリやマップも直感的ではない部分があります。また、グラフィックや音楽も現在の基準から見ると粗さが目立つかもしれません。

 しかし、当時のゲーム市場の潮流や技術的なチャレンジを注ぎ込まれた本作は、広大なフィールドの探索、リアルタイムでの戦闘、そしてアイテム収集による成長システムなど、アクションアドベンチャーゲームの基礎を築き、多くのプレイヤーにとって未だに語り継がれる名作となっています。40年以上が経過した現在でも、その影響力は色褪せることなく、ゲーム業界に多大な影響を与え続けています。ぜひ、一度は触れていただきたい名作です。

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