今回は9月26日に発売された『英雄伝説 界の軌跡 -Farewell, O Zemuria-』のクリアレビューです。軌跡シリーズ20周年記念タイトルと銘打たれた本作では、シナリオが大きく動き出し、歴代キャラクターが登場するなどシリーズファンにとっては見逃せない一作となっています。
まず、結論ですが20年続くシリーズということもあり、風呂敷を広げすぎたシナリオと大量のキャラクターの見せ場とを両立させようとするあまり、少々まとまりを欠いていることは事実です。しかし、長い歴史があるからこそ、様々な感情が押し寄せてくるキャラクターの魅力や力強さは素晴らしく、ファンコンテンツとしては満点だと感じます。それでは詳しいレビューに入っていきましょう。
『英雄伝説 界の軌跡 -Farewell, O Zemuria-』とは
・ 軌跡シリーズ20周年記念タイトル『界の軌跡』
まずは今年で20周年を迎える長寿コンテンツですので、『軌跡』シリーズについて簡単に振り返っておきます。『軌跡』シリーズは、日本ファルコムが1989年からリリースしている「英雄伝説」内の人気シリーズの一つです。
2004年に発売された第1作「英雄伝説VI 空の軌跡」を皮切りに『軌跡』シリーズは幕を開け、以来『零の軌跡』・『閃の軌跡』・『創の軌跡』・『黎の軌跡』などJRPGの歴史と共に在り続けています。今回レビューする『英雄伝説 界の軌跡』は2022年に発売された『黎の軌跡2』の続編であるのと同時に、軌跡シリーズ20周年記念タイトルと銘打たれており、歴代キャラクターが登場する記念碑的な一作となっています。
『界の軌跡』はシリーズ13作目ということで、はっきり言ってしまえばもう追いつくのはほとんど不可能に近いシリーズです。一応、2021年に発売された『黎の軌跡』は新規ユーザー向けに登場キャラクターの一新、システム・グラフィックの抜本的な見直しなど、心機一転作品として登場しました。ですが、続編『黎の軌跡2』では過去作のキャラクターがメインシナリオになるなど、やっぱりハードルの高いシリーズです。ですので、先に断言しておきますが、本作からシリーズを始めるのはあまりお勧めしませんし、物語を理解するには最低でも『閃の軌跡』からのプレイが必須となっています。
この後詳しく紹介していきますが、全体として『黎の軌跡』から『黎の軌跡2』への進化のようなシステム的な驚きが少なく、ややマンネリ感の強い作品であることは否めません。併せて、シナリオとキャラクターを両立させようとしすぎるあまりまとまりの無さが目立っているのも気になる点ではあります。とは言え、先ほども言ったようにシリーズのプレイが必須級であるからこそ、長年シリーズを愛してきたファンにとっては最高のコンテンツです。
・ シリーズ最大の危機が迫る怒涛のシナリオ
前作から完全な続きものですので、あらすじについても簡単に見ておきましょう。ゲームの舞台は、他の『軌跡』シリーズでも登場するゼムリア大陸の中心部に位置するカルバート共和国。プレイヤーはカルバート共和国の首都で何でも屋・裏解決屋(スプリガン)を生業とするヴァン・アークライドを中心にシリーズキャラクターと共に物語を追っていきます。
前作と前前作にあたる『黎の軌跡』シリーズでは「ゲネシス」という強力な導力器を巡る物語が紡がれてきました。本作では「スターテイカー計画」と呼ばれる宇宙飛行計画から物語は始まります。人類にとって大きな一歩となる宇宙計画にカルバート共和国は大きな盛り上がりをみせますが、ヴァンたちはその計画の裏に隠された真実へと迫っていく中で、ゼムリア大陸全土に迫る危機を知ることになります。
シナリオは全体としてこれまでシリーズで断片的に語られてきた物語がある程度明かされる内容となっており、終盤にかけての怒涛の展開はシリーズファンこそ驚きがあると思います。
圧倒的なキャラクターの魅力
シナリオが大きく動き出すというだけでも『界の軌跡』はシリーズファンとって見逃せない一作です。併せて圧倒的と呼べるキャラクターの魅力は20年の歴史があるシリーズだからこその強さだと実感します。
本作ではメインルートとなるヴァンパートのほかに物語の中で、リィンパートとケビンパートが用意されています。リィンパートは『閃の軌跡』の主人公・リィン・シュバルツァーを中心としたパートとなっており、少し成長したパーティでの旅路は妙な安心感があります。併せて、ケビンパートは「空の軌跡 the 3rd」の主人公・ケビン・グラハムのパートとなっています。
リィンパートは全体として同窓会的な側面が強く、ちょっとした旅行などキャラクターの内面をより深く知ることができるようになっており、『閃の軌跡』にとってはこれ以上ないほどのファンコンテンツとなっています。特に前作ではやや扱いに疑問を感じたトワについても懐かしい面々とワチャワチャとしている様子は非常にテンションが上がりました。
また、ケビンパートは『創の軌跡』などのメンバーと旅を行う中で昔の仲間をふと思い出したりなど、20年というシリーズの歴史の長さを再認識すると共にエモーショナルな感情が押し寄せる瞬間が何度もありました。
シナリオ全体としての評価はこの後紹介しますが、歴代キャラクターが登場するシークエンスに関しては多くのファンにとって納得感のあるものに仕上がっていたように感じます。
ブラッシュアップされた戦闘システム
・ 戦闘システムの基本について
続いて戦闘システムについて紹介していきます。本作の基本的なシステムは『黎の軌跡』シリーズを踏襲しており、「フィールドバトル」と「コマンドバトル」を流動的に変化させられる戦闘システムが採用されています。
ゲームではアクションゲームのような「フィールドバトル」と、「コマンドバトル」とを、ボタン一つで切り替えられるシームレスなシステムが採用されています。ダンジョンなどの探索において通常戦闘はアクションで軽快にこなしつつ、強敵に対してはコマンドバトルで戦略的に戦っていく、のようにバランスの取れたゲームプレイを楽しめるようになっています。
・ よりスピーディにより軽快になった「フィールドバトル」
基本は『黎の軌跡』シリーズを踏襲していますが、『界の軌跡』でブラッシュアップされたことでシステムの魅力はより増しています。「フィールドバトル」はシンプルなアクションゲームのような作りとなっており、操作も◯ボタンでの攻撃とR2の必殺技、×ボタンの回避と分かりやすいものとなっています。
『界の軌跡』では「覚醒」と呼ばれる新システムが追加されており、ヴァンなどの特定のキャラクターはゲージが溜まった状態でR3とL3を同時することで、一時的に攻撃力を大きく上昇させることが可能になります。これまでのシリーズでは火力的に「コマンドバトル」に持ち込む場面も少なくありませんでしたが、「覚醒」をうまく活用することで想像以上にスムーズに敵を一掃できる快感があります。
また、前作で採用されたジャスト回避を行うことでキャラクターを瞬時に切り替えて追撃を行う「クロスチャージ」もキャラクターを切り替えることなく、追撃を行うように変更してあったりなど、ユーザーの遊びやすいようにブラッシュアップされています。
一方で、同じく新システムとして、一時的に敵の動きを遅くする「Z.O.C」も搭載されていますが、先ほど紹介した「覚醒」とそこまで大きな差別化が図れていなかったりなど、気になる点もあります。とはいえ、「フィールドバトル」は『黎の軌跡』シリーズから数えて3作目にして完璧と呼べるほどの完成度を誇っています。
・ 驚きは少ないものの、爽快で硬派な『コマンドバトル』
また、「コマンドバトル」は「フィールドバトル」中に□ボタンを押すことで、瞬時に切り替え可能です。「コマンドバトル」では、通常攻撃はもちろん、魔法攻撃が可能なアーツ、そして「軌跡」シリーズお馴染みのCPというポイントで発動可能なスキル技・クラフトも用意されています。併せて、各キャラクターの行動範囲内を自由に移動できる、いわゆるシミュレーションRPG的な要素が採用されています。
個人的に前作『黎の軌跡2』の新システムとして気に入っていた「EXチェイン」も本作の戦闘における重要なシステムとなっています。「EXチェイン」とは、敵のスタンゲージを溜めてスタンさせることで一気にダメージを叩き込むことができるシステムとなっています。シリーズでは基本的にボス戦などは体力が多く設定されているので、スタン状態の敵に対して何度もスキル技を決めていくことで戦況は大きく変化します。
この「EXチェイン」をどのタイミングで発動するか、連鎖するようにスキル技を決めることができるかによって戦況が劇的に変わってく気持ち良さは『黎の軌跡2』同様にしっかりと味わえるようになっています。
また、新たに採用されたシステムとしては、「シャードコマンド」が挙げられます。内容としては閃の軌跡3などで採用されていた「ブレイブオーダー」に似たシステムで、ゲージを消費することで、攻撃力アップや被ダメージ現象などのバフをパーティメンバーに付与することのできるものとなっています。前作ではそこまで気にする必要のなかったブーストゲージの管理が必要となるため、バトルに程よい緊張感を生んでいます。
また、シリーズでは攻撃としては活用方法が少なかった魔法攻撃・アーツも複数の属性が付与された「デュアルアーツ」が追加されたことで活用の幅が広がっているのは想像以上にバトルに幅を与えていました。
そのほかにもサポートメンバーが追撃などを行ってくれる「B.L.T.Z.システム」や連続攻撃を行える「Z.O.C」など、細かな調整によって遊びやすくなっている印象です。とはいえ、『黎の軌跡2』での「EXチェイン」のような驚きは少なく、あくまでもブラッシュアップに留まっているのは気になったポイントです。併せて、「フィールドバトル」と比べると既存のものにどんどんシステムを増やしているので、覚えることが多く、やや煩雑に感じたのでもう少し取捨選択をして欲しかったところです。
シナリオやゲームサイクルについて(ややネタバレあり)
続いてシナリオやゲームサイクルについても触れておきます。ここからは少しネタバレを含みます。
本作は序盤でも紹介したように軌跡シリーズにとって大きな動きのある作品として作られており、シナリオとしても長年隠されてきた事柄やキャラクターに関する謎など、ある程度明かされるようになっています。そのため、全体としてシナリオを進めることと、キャラクターを魅力的に魅せることの両立が難しくなっていたのはプレイしていてもったいなく感じました。
例えば、レビューの中でも紹介しましたが、リィンパートなどについてはキャラクターの魅力だけでゲームが十分に成り立っており、ファンコンテンツとして非常に高い強度を誇っています。一方で、ヴァンパートに関しては終始、物語の真相を追いかけることが重視されているため、ヴァンやアークライド解決事務所のメンバーの魅力があまり際立っておらず、全体として舞台装置のような役割に終始していたのは少々残念でした。シナリオとしては殆ど動きがなかったことで賛否が分かれた『黎の軌跡2』を踏まえてのことかと思いますが、それにしても生活のようなシークエンスをもう少し見たかったというのが正直なところです。
また、ゲームサイクルについても『黎の軌跡』シリーズから数えて3作目ということもあり、全体的にマンネリ感が強くなっていたのはどうしても気になってしまいました。ゲームでは基本的にムービーから街の探索、サブミッション、簡単なダンジョン探索というのがセットになっており、それを各章でこなしていくという進行のため、メリハリがあまりないのは冗長さを感じてしまいました。前作ではクオリティなどの賛否は別として追跡やハッキングなどをシナリオに適宜組み込むなどの工夫がありましたが、本作はそれらも基本的にはサブ要素になっており、平坦なゲームプレイが目立ってしまっています。
また、シナリオに関しても軌跡シリーズのお約束ではありますが、ボスの戦闘後に危機が迫ると仲間が助けに来るという展開が多く、キャラクターものとはいえもう少しパターンが欲しかったところです。併せて、現在、ファンの間でも賛否が分かれているクリフハンガーのようなエンディングに関しては「軌跡らしさ」でもあるので個人的にはそこまで否定的ではありません。とはいえ、続きが2年後かなと思うともう少し一区切りを感じさせるものでもよかったのかなとは思います。
ボリュームや難易度について
最後にボリュームや難易度についても紹介しておきます。まず、ボリュームについてはサブクエストなどを一定程度こなして大体45時間程度でした。体感としては『黎の軌跡』シリーズと同等くらいか少し多いくらいでボリュームとしては十分と言えます。
また、前作のメルヒェンガルテンの改良版のような要素として「グリムガルテン」と呼ばれるやり込み型のダンジョンも用意されています。こちらはメルヒェンガルテンと比べてもある程度周回がしやすいようになっているのでレベル上げや素材集めとしても使いやすいものとなっています。併せて、やり込みとはいえ最奥にはシナリオも用意されているので、ファンとしては必須のコンテンツと言えます。
また、難易度に関しては今回、ノーマルでプレイしていましたが、レベル上げや装備をしっかりと見直したりなどしながら進めていく必要があるので、十分に歯ごたえのある戦闘を楽しむことができるようになっています。併せて、シリーズお馴染みではありますが、イージーやベリーイージーは名称通りの遊びやすい難易度に設計されていますのでRPGがあまり得意ではないという方も楽しめるようになっています。
結語
いかがでしたでしょうか。
長い歴史のある作品だからこその課題も決して少なくありません。とはいえ、軌跡シリーズ20周年記念タイトルとして、長い歴史が育ててきたキャラクターの魅力はしっかりと感じることができる作品に仕上がっており、ファンコンテンツとしては満点だと感じます。
2025年には 『空の軌跡』のリメイクが登場するなど、シリーズとしてどのような展開を見せるのか、一ファンとしてこれからが楽しみです。