【クリアレビュー】「北海道連鎖殺人オホーツクに消ゆ~追憶の流氷・涙のニポポ人形~」40年越しの完結編!素晴らしい原作愛に涙。

 今回は、9月12日に発売された『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ ~追憶の流氷・涙のニポポ人形~』のクリアレビューです。本作は、ゲームファンであれば誰もがご存じの堀井雄二さんが手掛けた名作アドベンチャーのフルリメイク版です。1984年にPC向けに、1987年にはファミコン版がリリースされ、今回Nintendo SwitchとSteam向けに約40年越しのフルリメイク版が登場しました。リメイクでは、オリジナル版を忠実に再現しつつ、必要な範囲でブラッシュアップされており、ぜひ多くのユーザーにプレイしていただきたい、古典的なアドベンチャーゲームの息づかいを感じる作品に仕上がっています。それでは、詳細なレビューに進んでいきましょう。

『北海道連鎖殺人オホーツクに消ゆ~追憶の流氷・涙のニポポ人形~』のポイント

堀井雄二氏の伝説の名作、約40年ぶりの移植

古典的ながら温かみのある名作ADV

良くも悪くもクラシックなゲームプレイ

約40年越しの完結編として素晴らしい追加シナリオ

目次

堀井雄二とアドベンチャーゲーム

『ポートピア連続殺人事件』の衝撃

 『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』。『ドラゴンクエスト』で広く知られる堀井雄二さんが、1984年に世に送り出した作品です。スマッシュヒットを記録した『ポートピア連続殺人事件』の続編として開発され「アドベンチャーゲーム史」にとっても欠かせない一作といえます。とはいえ、近年のゲームファンの中には、本作の功績や、そもそもの存在を知らない方も多いかもしれません。というわけで、まずは、堀井さんの作品歴を辿りつつゲームの概要を紹介していきます。

ゆう坊のでたとこまかせ(1982年)

 1986年に『ドラゴンクエスト』で一世を風靡した堀井さんですが、ゲーム業界に参入するきっかけは、そこから4年前に遡ります。1982年、当時フリーライターとして活躍していた堀井さんは、エニックス(現、スクウェア・エニックス)が主催した「ゲーム・ホビープログラムコンテスト」の取材をすることになります。ですが、コンテストの記事を執筆するライターという立場でありながら、堀井さん自身も作品を制作し、見事入選を果たします。

ラブマッチテニス(https://www.gamepres.org/enix-1_08b/)

そんな堀井さんのデビュー作が『ラブマッチテニス』というスポーツゲームです。『ラブマッチテニス』は、ルール自体は簡易なスポーツゲームですが、キャラクター同士の掛け合いやアドベンチャーゲーム的な要素を取り入れた先駆的な内容が特徴でした。この成功によって、堀井さんはゲーム開発への興味を深め、エニックスからアドベンチャーゲームの制作依頼が舞い込みます。

 そして、翌年1983年にリリースされたのが、PC-6001向けにリリースされた『ポートピア連続殺人事件』です。本作は、堀井さんにとって初めての本格的なアドベンチャーゲームですが、現代日本を舞台とする推理小説風のシナリオや、緻密なフラグ回収、最後に明かされる驚愕の結末は、当時のプレイヤーに強い印象を与えました。国内のアドベンチャーゲームを大きく発展させる記念碑的なタイトルとして、後続の作品に大きな影響を与えました。

・ 『北海道連鎖殺人オホーツクに消ゆ』とは

 『ポートピア連続殺人事件』の成功を受け、堀井さんは次のアドベンチャーゲームに着手します。それが、今回レビューしていく1984年にPC向けにリリースされた『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』です。本作は、前作以上に壮大な舞台と緻密な展開が特徴で、プレイヤーは連続殺人事件を追う刑事として、北海道の各地を巡っていきます。網走刑務所や摩周湖といった実際の観光名所も登場しており、物語のリアリティも増しています。

 また、特筆すべきはシステム的な変化です。当時、まだまだ発展途上だったアドベンチャーゲームでは、プレイヤーがキーボードで行動を指示する「コマンド入力式」が一般的でした。一方で、本作では画面上に表示される選択肢から行動を指示する「コマンド選択方式」が、およそ初めて採用されました。一見すると「コマンド入力式」の方がシステム的に興味深く思えますが、当時は、プレイヤーの思うように行動できなかったり、作り手の想定通りにいかないことも多く、一定の煩雑さを生んでいました。

 そのため「コマンド選択方式」は、読み物として直感的にストーリーを体験させることに秀でており、アドベンチャーゲームにとって非常に画期的な発明でした。(本作以前にも『女子寮パニック』(エニックス、1983年)などでコマンド選択方式の要素は見られましたが、本作によって広く認知され、普及したと言えます。)以降、「コマンド選択方式」は後続のアドベンチャーゲームにも広く採用され、物語鑑賞が重要視されるゲームデザインへと発展していきました。

 『オホーツクに消ゆ』はその後、1987年にファミコン向けにリメイクされ、グラフィックや操作性の改善が施されました。また、PC-9801版や携帯電話向けにも移植されつつ、コンシューマ向けの移植は長らくされてきませんでした。今回のリメイク版では、1987年のファミコン版をベースに、荒井清和さんのデザインをフィーチャーし、フルボイス対応によってキャラクターの魅力をさらに引き立てています。他にも、現代の作品として、システムや操作性をブラッシュアップしており、オリジナルの魅力を保ちつつ洗練された体験が提供されています。

あらすじ&ゲームプレイについて

ドラマティックな演出が光るミステリー

 本作は、北海道を舞台に連続殺人事件を追う刑事の物語です。物語は東京の晴海埠頭で、身元不明の男の水死体が見つかるところから始まります。主人公は、遺体のポケットから見つけたチラシを頼りに、高田馬場で営業するキャバレー・ルブランに向かいます。ルブランのホステスの証言により、被害者の名前と北海道・釧路の住所を突き止めた主人公は、単身北海道に向かうことになります。

 プレイヤーは、北海道警察の若手刑事である猿渡俊介(さるわたり)とともに、捜査のため北海道各地を巡ります。釧路、網走、札幌、紋別など有数の観光地を訪れながら、地元住民や関係者との対話を通じて、事件の背後に隠された複雑な人間関係を紐解いていきます。

しかし、捜査の進展と呼応するように第二、第三の殺人事件が連鎖し、物語の謎も深まっていきます。ストーリーの進行に伴い、事件は当時の人々だけでなく、戦時中から続く社会の暗部にも繋がっていきます。北海道の壮大な自然や風景、シリアスな人間ドラマとミステリーなど、「火曜サスペンス」風の物語は普遍的な魅力を持っています。

 また、堀井さんはゲーム制作に従事する前は、漫画家を目指していたり、フリーライターとして活動していたこともあってか、ゲーム内でもドラマティックな演出が多く取り入れられています。例えば、東京パートが終わり、北海道へ向かうタイミングでオープニングが始まるなど、アバン的な演出を取り入れた初期の作品といえます。とにかく、テキストの流れや、少しのコミカルさなど、プレイヤーを最後まで飽きさせない構成になっており、堀井さんの構成力には驚かされます。

良くも悪くも維持されたクラシックなゲームプレイ

 もう少し詳しくゲームプレイについて見ていきます。今回のリメイクに際して、インタビューでも「可能な限り当時の表現をそのまま残すように頑張った」と語られているように、基本的なゲームプレイは、いい意味でも悪い意味でもファミコン版当時を踏襲しています。(https://game8.jp/articles/568363

 ゲームプレイはシンプルで、プレイヤーは「移動」「聞く」「見る」などのコマンドを選択して操作を進めます。どうしても、1987年に発売されたファミコン版のリメイクですので、古典的なアドベンチャーゲームらしい部分や、フラグ管理の面倒さが残っているのは事実です。例えば、偶然出会ったカメラマンが重要な手がかりを持っていたり、特定の町を訪れないと事件が進展しなかったりと、アドベンチャーゲーム特有のフラグ管理が進行の障害になる場面もあります。

 とはいえ、全体のプレイフィールとしては、シンプルながらも丁寧な動線と、細かく用意された小ネタのおかげで、プレイしていてネガティブに感じることは少ないと思います。いわゆる、「ハズレ選択肢」に対しても、相棒のシュンのちょっとしたボケが用意されているので、徒労感を味わいづらくなっています。

 また、究極的には各エリアでコマンドをすべて試すことで、何らかのフラグは処理できるので「詰む」こともほとんどありません。さらに、もし行き詰まっても、相棒のシュンとトランプをプレイすることで、次に進むべき手がかりや見逃しているフラグを示してくれるため、初心者でも安心して楽しめます。どうしても古風な部分はありますが、それが『オホーツクに消ゆ』ならではの味わいでもあります。

約40年ぶりのリメイクとして

システムの改良点

先ほどの項目でも紹介したように、本作は基本的にはファミコン版のゲームプレイを踏襲しています。そうはいっても、完全にファミコン版から変化していない、ということではなく、昔ながらのプレイ感覚を残しつつも、現代のプレイヤーに合わせた改良が加えられています。

 たとえば、ファミコン版では、データ容量などの制限もあり、テキストが平仮名と片仮名で構成されていました。当然ながらリメイク版では、漢字が使用されていますし、フォントも現代的なものに一新され、読み物としての分かりやすさ・認識のしやすさが格段に向上しています。また、ファミコン版は、表示できるオブジェクト数の制限もあってか、会話テキストと証拠などを見せる際にちょっとした間があったりと、現代の視点からみると、テンポ感で気になる点もありました。リメイク版ではこれらの点が改善され、ゲームプレイ全体がシームレスになっています。

 他にも、任意のタイミングでセーブができる上、オートセーブ機能も搭載されています。また、一部3Dダンジョンの探索要素もありますが、オートマッピング機能が搭載されているので、迷わず探索しやすくなりました。

 また、直接的にはゲームプレイとは関係ありませんが、人物相関図や捜査マップの導入も体験の没入感という意味では効果的に機能しています。メニュー画面を開くと、登場人物の関係性を視覚的に確認できる相関図が用意されており、訪れた地域の位置関係や「オホーツク一口メモ」といった豆知識が追加され得るので、ゲームの舞台背景をより深く理解できるようになっています。スキップ機能やバックログなど、アドベンチャーゲームに一般的に搭載されているシステムが欠けているのは多少気になる点ですが、全体のプレイフィールは大きく向上しています。

本編後エピソードについて

 リメイク版ならではの要素として、発売前から告知されていた「本編後エピソード」についても、少しだけ紹介しておきます。ファン必見の内容ですので気になる方はぜひプレイして触れて頂けますと幸いです。

 さきほどは紹介しませんでしたが、実は今回のリメイク版、そもそものオープニングからある仕掛けが施されています。というのも、ゲームを起動するとまず「2024年」という文字が表示され、猿渡まりな(さるわたり)と名乗る女性が主人公に話しかけてくる場面から物語が始まります。女性によると、どうやら猿渡俊介がある事件に巻き込まれ倒れたこと、その事件の背後に37年前の連続殺人事件が関係していることが示唆されます。

 現代の視点からまりなと共に事件を追うことになった主人公は、北海道・釧路へ向かう新幹線の中で、37年前に起きた「オホーツク連鎖殺人事件」について語り始めます。ここから追想する形で本編が進行し、過去の事件の真相解明後に、本編後のエピソードが展開されます。追加エピソードは、よくある「ちょっとした追加シナリオ」ではなく、丁寧に作り込まれた2~3時間程度のボリュームとなっています。本編で少しだけ消化不良だった要素を元に、大きく物語を膨らませており読後感の良い体験として仕上がっています。「オホーツクに消ゆ」というタイトルが、約40年の時を経て回収されたような、非常に完成度の高い完結編といえます。

ゲームボリュームについて

 最後に、本作のボリューム感についても触れておきましょう。アドベンチャーゲームというジャンルの特性上、全体的なプレイ時間は比較的短めです。個人的には、以前ファミコン版をプレイしていたこともあり、特に詰まることなくスムーズに進行したため、本編のクリアにかかった時間は約3時間程度です。クリア後のエピソードに関しても、2~3時間ほどでクリア可能な内容でしたので、全体を通して5時間前後でクリア可能なボリューム感となっています。アドベンチャーゲーム初心者で、仮に途中で迷ってしまっても10時間もかからず全てのシナリオをクリアできるでしょう。

 どうしても、ボリューム自体は控えめですので、ボリューム面で期待しているユーザーは、プレイ前に知っておいていただきたいとは思います。とはいえ、読後感も良く、物語がスムーズに完結する構成が魅力を引き立てているため、充実感はしっかりと味わえます。

結語

いかがでしたでしょうか。オリジナル版『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』は、その巧妙な物語展開と、コマンド選択方式による直感的な操作性が特徴の作品で、アドベンチャーゲームに新たな方向性をもたらした名作です。特に、コマンド選択方式の影響は大きく、以後のアドベンチャーゲームが「物語体験」を提供する方向に進化していく一助にもなっています。

 また、リメイク版では、オリジナルの持つ魅力を忠実に再現しつつ、現代のプレイヤーに向けて進化させた部分が特筆すべき点です。特に、約40年ぶりに追加されたエピソードも素敵で、読後感の良い体験として仕上がっています。「オホーツクに消ゆ」の完全版として、アドベンチャーゲームファンには是非プレイしていただきたい一作です。

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