【クリアレビュー】『かまいたちの夜×3』色褪せない金字塔だが、ベタ移植であまりにもったいない

 ノベルゲームファンであれば、一度は触れたことがあるであろう『かまいたちの夜』。シリーズは、1994年にスーパーファミコン向けに第1作が発売されて以来、シリーズ累計で約200万本を出荷しており、今年で30周年を迎えます。画面に表示されるテキストを読み進め、選択肢によって物語が分岐していくという「サウンドノベル」を幅広く一般化した作品として、ノベルゲームジャンルにおいてきわめて重要な作品です。

 今回の『かまいたちの夜×3』は、そんなシリーズの30周年を記念してリリースされました。とはいえ、新作やリメイクということではなく、2006年に発売されたシリーズ第3作の移植版となっています。レビューで詳しく見ていくように、さまざまな課題もあるのですが、まずは作品概要から理解していただけますと幸いです。

『かまいたちの夜×3』のポイント

サウンドノベルの金字塔が遂にSwitch移植!

3作品の全部入りではなくPS2版の移植である

自由なコンフィグ・便利機能などの一切無いベタ移植…

それでも、『かまいたちの夜』の魅力の一端は味わえる

目次

サウンドノベルの金字塔『かまいたちの夜』

 『かまいたちの夜』シリーズは、サウンドノベルというジャンルを広く一般化した伝説的な作品です。ホラーミステリーとして構成されたメインシナリオをはじめとして、選択肢によってはコメディテイストの物語が展開されたり、オカルトやメタフィクションになったりと、豊かな物語性で広くゲームファンに話題を呼びました。

 シリーズは、1994年に発売された第一作『かまいたちの夜』から始まり、2002年の『かまいたちの夜2 監獄島のわらべ唄』、そして2006年のシリーズ完結編『かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相』へと続きます。それぞれの作品は個別に楽しむこともできますが、完結編となる『×3』では、シリーズ全体を包括する物語が展開されます。

『かまいたちの夜』(1994年)

シリーズ1作目となる『かまいたちの夜』では、雪山のペンション・シュプールを舞台に密室で次々と起こる殺人事件に巻き込まれる主人公・透と、ヒロイン・真理を中心とする物語が描かれます。

 透と真理はスキー旅行でペンションに滞在していましたが、突然の吹雪によりペンションに閉じ込められてしまいます。クローズド・サークルといえば、シンプルな密室ミステリーの状況ですが、ゲームでは、プレイヤーの選択によって事件の解決方法や結末、そもそもの物語の方向性まで大きく変わる点が特徴です。

 エンディング数も非常に多く、ミステリーの解決だけでなく、ホラーやギャグの要素を含んだ分岐も存在するなど、ノベルゲームの面白さを世に広めた作品として30年を経過した今でも評価されています。シナリオはミステリー作家の我孫子武丸さんが担当しており、以後も我孫子さのんはシリーズの監修・シナリオに携わっていきます。

『かまいたちの夜2 監獄島のわらべ唄』(2002年)

続編となる『かまいたちの夜2』では、舞台が雪山のペンションから絶海の孤島・三日月島に移ります。物語は、シュプールで起こる殺人事件を描いたゲーム『かまいたちの夜』がヒットした礼と称して、その作者である「我孫子武丸」を名乗る人物から、彼の別荘へと招待されるところから始まります。

 主人公・透とヒロインの真理も招待状に興味を惹かれ、三日月島へと向かいますが、島には不気味な「わらべ唄」の伝承があり、それに関連する形で次々と殺人事件へと連鎖していきます。プレイヤーは、前作と同様に分岐する物語を追いながら、謎を解き明かし、様々な結末を迎えます。

 特に、本作はシナリオの膨大さが特徴で、メインとなる「わらべ唄篇」のクリア後には、サスペンス風の「サイキック篇」や、ボーイミーツガール的な「ぼくの恋愛篇」、その名の通りの「官能篇」など、大量のサブシナリオに分岐していきます。

『かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相』(2006年)

『かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相』は、シリーズの完結編として再び三日月島を舞台にした物語が展開されます。前作で発生した「三日月島事件」は一応の解決を見ましたが、その事件の影響で人生が狂わされた関係者たちが再び島に集まり、新たな事件が勃発します。

 また、ゲームでは、従来のノベル形式に加えて、複数の主人公を操作する「マルチサイト形式」が採用されています。プレイヤーは4人の異なる視点から物語を追い、各キャラクターの視点や動機を探りながら、複雑に絡み合う事件の全貌に迫ります。

 タイトルの「真相」ということからもわかるように、初代『かまいたちの夜』の「シュプール編」で起こった事件、「わらべ唄篇」で明かされた真実をさらに深堀する物語の解明に焦点が当てられています。のちほど詳しく見ていくように、過去作を未プレイでも物語を理解できるように、過去二作のメインシナリオ「シュプール編」・「わらべ唄篇」は収録されており、一つの大きな物語の始まりから終わりまでが丁寧に描かれます。

『かまいたちの夜×3』プレイ前に知っておきたいこと

2006年にリリースされた「かまいたちの夜×3」の移植

さて、ここまでみてきたように『かまいたちの夜』はサウンドノベルの金字塔として、本当に素晴らしい作品です。また『かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相』も、個人的にもオリジナル版をプレイしていましたが、一定程度の問題はあっても、シナリオとして満足感を得られる作品でした。

 ですが、だからこそ、今回発売された『かまいたちの夜×3』はプレイする際に注意すべき点もあります。ここからは「『かまいたちの夜×3』プレイ前に知っておきたいこと」と題して、オリジナル版の課題や移植の問題について詳しく見ていきます。

 第一のポイントは、オリジナル版も一定の課題を抱えていたという点です。さきほど各作品のシリーズ概要を紹介したように『×3』は、シリーズの完結編として位置付けられており、単独でもシナリオが理解できるように、各作品のメインシナリオが収録されています。確かに、シナリオの連続性を理解できることは素晴らしいですが、オリジナル版にあった多くのアナザーストーリーや分岐は削除されている点は、シリーズの魅力を味わい辛い構成といえます。

 特に、2作目は本編シナリオの評価こそ割れることが多いですが、豊富なサブシナリオはファンの間で愛されていました。しかし『×3』では、シリーズの魅力であるクリア後のサブシナリオや分岐要素が欠けているため、シリーズファンにとっては「片翼が欠けている」ような感覚を覚えざるをえません。

 また、『かまいたちの夜×3』自体も、サブシナリオや多様な分岐が大幅に削減されており、番外編のみが残される形となっています。そのため、全体的なボリュームやシナリオのバリエーションが減少しており、初期2作品と比較して、やや寂しい内容になっているのは否めません。

 このように『×3』はオリジナル版時点で、シナリオの充実感やバリエーションという意味で、一定の課題を抱えていました。今回の移植版においても、追加や過去作のフルシナリオといった要素は一切無く、完全にオリジナル版のコンテンツがそのまま移植されています。「透」と「真理」の物語の完結を楽しみたい方にとっては、最適なコンテンツですが、シリーズの完全版を期待していたファンには物足りなく感じるかもしれません。

2024年とは思えないほど「ゴリゴリのベタ移植」

 なるほど、あくまでも2006年にPS2向けにリリースされた作品の移植版である。それを理解しておけば、ほかに懸念がないか?と言われると、もう少し待って欲しい、というのが正直な感想です。

 というのも、実際にプレイしてみると実感しますが、本作は2024年のアドベンチャーゲームとしては、UIやゲームシステムの古臭さが非常に目立っています。リメイクやリマスターという言葉が持つ意味はメーカーによって様々ですが、近年、現行機向けの再発売では「高解像度化」や「現行ハードに向けた最適化」・「便利機能の追加」が一般的です。 もちろん、必須なわけではありませんが「アドベンチャーゲーム」という読むこと・考えることに特化したジャンルだからこそ、現代のプレイヤーに向けた調整は考慮すべきだと思います。

 しかし本作は、ほとんどPS2版の「ゴリゴリのベタ移植」と言えるほど、そのままの移植に留まっています。特に、インターフェース面での古さが目立っており、既読文章の早送り機能が使いづらかったり、バックログが見づらかったり、コマンド選択に十字キーしかつかえないなど、ストレスに感じる部分が多くありました。また、タイトル画面には「環境設定」という項目があるのですが、アスペクト比とか・音響回りの設定は一切用意されておらず「フォント設定」しか選択肢がありません。仮に、次回作があるとすれば、UIの改善など、もう少しユーザーフレンドリーな設計を期待したいところです。

30周年記念としては心許ないが…

それでも「かまいたちの夜」は面白い!

 ここまで、『かまいたちの夜×3』のオリジナル版由来の魅力と課題、移植としての問題点を紹介してきました。やはり、サブシナリオの不足や、2006年版とほぼ変わらないインターフェースなど、現代のゲームとしては不満を感じる要素があるのは事実です。

 しかし、それでもなお「かまいたちの夜」シリーズは、サウンドノベルの金字塔として輝き続ける名作です。特に、シリーズ全体の最終章として『かまいたちの夜×3』が紡ぐ物語は、作品を長く紡いできたからこそ説得力を持っており満足感を得られます。

 個人的には、マルチサイトの主人公にもなる「俊夫」というキャラクターが好きなのですが、従来の主人公・透の視点では知ることのできなかった彼の内面は、恨み節やないまぜの感情がみられ、非常に人間味を感じられます。

 我孫子さんが脚本を手がけている、ということもありますが、やはり作品を重ねることでキャラクターが活き活きとしており、そういう意味でも読み物としての充実感は高いといえます。初代のキャラクターの成長や葛藤を描いた三部作の完結編として、物語はしっかりとまとまっています。

 もちろん、1作目『かまいたちの夜』の全シナリオが遊べるコンプリート版のようなものが理想的だったとは思います。しかし、本作が30周年を記念して発売されたこと自体は歓迎すべきことであり、今後の発展に期待を込めて応援したいです。

・ プレイ時間/ボリュームについて

 最後に、プレイ時間やボリュームに関しても紹介しておきます。個人的にアドベンチャーゲームに慣れているということもありますが、『かまいたちの夜』1作目の「シュプール編」の1ルート目の攻略は90分程度、サバイバルエンドなどいくつかのルートを試行して3時間程度のプレイ時間となりました。

 次に『かまいたちの夜2』の「わらべ唄篇」では、いくつかのギャグエンドを解放しつつ、ベストエンドにあたる「監獄島のわらべ唄」にたどり着くまでに約3時間。そして、シリーズ完結編である『かまいたちの夜×3』の「真相編」では、バッドエンドを含めて最終的に事件の真相を解き明かすまでに約5時間となりました。

 結果、初代作の「シュプール編」から続く一連の連鎖する事件の解明には、約10時間となります。各作のシナリオは短めに感じるかもしれませんが、一連の事件単独で10時間とノベル作品としては、一定程度のボリューム感といえます。また、『×3』では、番外編となるシナリオも用意されていますので、すべてのコンテンツを読破するには20時間ほどのボリューム感となっています。

結語

 今回の『かまいたちの夜×3』は、1994年の第一作から数えてシリーズの「30周年記念プロダクト」と謳われています。そういう意味ですと、ベタ移植という点、UIや追加を一切施していない点はどうしても気になります。

 とはいえ、シリーズは、2011年の『真かまいたちの夜 11人目の訪問者』、2017年の『かまいたちの夜 輪廻彩声』など、定期的にリリースはありつつも、活発とは言えずサウンドノベルファンにとっては物足りなさが続いていました。そのため、今回のリマスター版はついに本丸が「動き出した」という実感もあり、大きな一歩だと感じます。

 『×3』自体に課題はあるものの、サウンドノベルの金字塔である『かまいたちの夜』シリーズを一度に体験できる貴重な機会であり、ファンにとっては感慨深い作品です。ぜひとも、過去作の移植、そして次なる一歩にも期待したいと思います。

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