今回は9月26日に発売された『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』のクリアレビューです。シリーズ初となるゼルダを主人公とする物語、新アクションの数々、そして何より約9年ぶりとなる2Dゼルダの完全最新として個人的にも非常に楽しみにしていました。
早速、結論ですが「カリモノ」や「シンク」などユーザーの発想を重視するアクションの数々は想像以上に自由なゲームプレイをもたらしています。一方で、実験的な作品でもあるため、中盤以降やや使用する「カリモノ」が限定されたり、UIの使いづらさが目立っていたりなど気になる箇所もあります。とはいえ、『ブレスオブザワイルド』を初めとして3Dゼルダの進化に対して、少し目立っていなかった2Dゼルダの新たな可能性を見出すことに成功した一作であることは間違いありません。
『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』とは
まずは『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』について簡単に紹介していきましょう。もはや説明も不要かと思いますが、本作は1986年にファミリーコンピュータ ディスクシステムで発売された初代『ゼルダの伝説』から続くアクションアドベンチャーゲーム『ゼルダの伝説』シリーズの最新作です。
シリーズは大きく分けて初代から続く2Dゼルダと、1998年にニンテンドー64で発売された『ゼルダの伝説 時のオカリナ』で誕生した3Dゼルダという分類があり、本作『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』は2Dゼルダの最新タイトルとなります。
また、これまでのシリーズと大きく異なる点として、シリーズの主人公を歴任してきた緑の服装がトレードマークの少年・リンクではなく、ハイラル王国の王女・ゼルダ姫が主人公となっている点が挙げられます。個人的にもこれまで『ゼルダの伝説』を紹介する動画などで「この緑の服を着た少年は「ゼルダ」ではありません。」と言ってきましたが、本作は正真正銘『ゼルダの伝説』となったわけです。
この後詳しく紹介していきますが、ゲームでは攻撃などのアクションを有していないゼルダに対して「カリモノ」と呼ばれる新アクションが追加されており、主人公だけでなくアクション面においても新鮮味のある体験を提供しています。
また、開発は『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』やNintendo Switch版『ゼルダの伝説 夢をみる島』など、数多くのシリーズを手掛けるグレッゾが担当しています。「夢をみる島」と同様にジオラマ風のグラフィックの魅力はもちろん、多くのリメイク作品を担当していることもあり、謎解きやダンジョンなどのデザインもゼルダらしさをしっかりと感じることができる作品となっています。
ゲーム全体としては新システムには実験的な箇所も散見されるなど、一定程度の課題があることは事実です。とはいえ、リメイクなどを除くと、2015年にリリースされた『ゼルダの伝説 トライフォース3銃士』から約9年振りの 2Dゼルダとして間違いのない一作に仕上がっています。
正真正銘・ゼルダの伝説
それでは『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』のレビューに入っていきましょう。まずは本作のあらすじやゲーム進行について紹介していきます。ゲームの舞台は様々な大地が広がる世界・ハイラル。物語は剣士・リンクがゼルダ姫を救うため、強大な力を持つ魔物・ガノンに戦いを挑むところから始まります。リンクは戦いの末にガノンの討伐に成功し世界に平和が戻ったと思われた瞬間、大地に謎の裂け目が発生し、リンクは飲み込まれてしまいます。
ゼルダはリンクを助けるため、ハイラル城に戻りますが裂け目はハイラルの至る所に発生し、ゼルダの父であるハイラル王までも飲み込まれてしまいます。そして、裂け目からはハイラル王のニセモノが生み出され、ゼルダを牢獄に閉じ込めてしまいます。
突如として牢獄に閉じ込められ、途方に暮れるゼルダの前に小さな妖精・トリィが現れます。彼はハイラル全土に広がりつつある裂け目を元に戻すことができると語ります。ゼルダはトリィと共に裂け目からハイラルを救うため冒険を行っていくことになります。
この後詳しく紹介していきますが、本作ではシリーズでお馴染みの剣を使ったアクションではなく、ゼルダに与えられた新たな能力「カリモノ」がキーメカニクスとなっています。そのため、プレイ感としてはこれまでのシリーズと少し異なるものとなっています。
とはいえ、初代『ゼルダの伝説』から続く俯瞰視点を採用し、プレイヤーが広大なハイラルの探索を行っていくという基本的な進行は「2Dゼルダ」のプレイスタイルとなっています。併せて、ビジュアルスタイルはNintendo Switch版『夢をみる島』を踏襲しており、画面の上下の端の「チルトシフト」というエフェクトによってジオラマ感が強調されています。
また、ゲームプレイは『神々のトライフォース2』などと同様にいくつかのダンジョンをプレイヤーの好きな順序で攻略できるワイドリニアに近い方式が採用されてるなど、新旧様々な要素を満遍なく取り入れています。
併せて、『夢をみる島』では一部のエリアでしか採用されていなかった2D横スクロール視点のフィールドが随所に用意されていたり、『夢をみる島』の8倍にも及ぶフィールドなど、2Dゼルダの最新作として多くのユーザーが満足できる作品に仕上がっています。
ゼルダならではの新アクション
・ 机からモリブリンまで最強のサブスク「カリモノ」
続いてアクションについて見ていきます。本作ではゼルダが妖精・トリィから与えられた能力「カリモノ」と「シンク」がメインアクションとなっています。まず「カリモノ」は言葉の通りですが、部屋に置かれたベットや机といった家具、子供が遊んでいるトランポリン、シリーズお馴染みの壺など、様々なものを借りる能力です。
借りると言っても物そのものを借りてしまうのでなく、トリィから受け取った杖を使いコピーを生み出すことが可能となります。言葉だけで聞くと机とか壺なんて借りて冒険の役に立つの?と思うかも知れません。ですが、これらの「カリモノ」は道中で様々な助けをしてくれますし、何よりゼルダシリーズの醍醐味である「謎解き」を体験の随所で味合わせてくれます。
例えば、ハイラルの大地は高低差が激しく、崖や高台が多く配置されています。そのような場面ではゼルダのジャンプだけでは登ることはできません。そんな時、先ほど借りてきた机を足場にしたり、複数のオブジェクトを組み合わせることでジャンプ台を作ったりなど、様々な方法で登ることが可能になります。「カリモノ」は全てで120種類以上用意されているので、一口に崖を登ると言ってもプレイヤーによって様々な回答が用意されています。
また、「カリモノ」は物だけではなく、フィールドを闊歩する魔物も借りることができます。シリーズお馴染みのモリブリンやキースを初めとして非常に多様な魔物を借りることができ、「カリモノ」となった魔物は出現させることでゼルダの代わりに戦ってくれます。
魔物の強さは大小様々ありますが、小さい魔物をたくさんだして数で応戦したり、巨大なもので一気に攻め込んだりなど、戦い方も人それぞれです。併せて冒険の中ではリンクの力を借りる「剣士の力」という能力も用意されており、画面左上のゲージを消費して一時的にリンクと同じように剣を振ったり弓を使ったりすることが可能となります。こちらは戦闘やダンジョンの攻略の中でいざという時に活用することで難所を打開でき、ゲームプレイの良いアクセントになっています。「カリモノ」は全体として『ティアーズオブザキングダム』の「ウルトラハンド」に似たような能力となっており、様々な場面においてプレイヤーの発想が重要となる近年のゼルダらしいアクションとなっています。
その一方で、新アクションということもあり一定程度の実験っぽさが残っているのも事実です。例えば、中盤で手に入るとある「カリモノ」が極端に使い勝手が良く、ほとんどの場面でその「カリモノ」一つで乗り越えられてしまいます。
特に本作では基本的に高所に登ることや離れた足場に移動するなどで「カリモノ」を活用することが多いので、なおのことその「カリモノ」を使う場面が自ずと多くなっています。もちろん、魔物に関してもレベルが高いものを手に入れれば敵を撃破しやすいので同じこととも言えます。
とはいえ、魔物に関してはストーリーの進行の中でそこまで強いものを捕まえることはできず、探索をしっかり行っているプレイヤーへのご褒美のようなものとなっています。一方で「カリモノ」に関しては中盤のダンジョンで普通に手に入るものとなっています。そのため、中盤以降は「カリモノ」が生み出すプレイヤーの発想という体験がやや縮小しています。
・ より自由な発想を手助けする「シフト」
また、もう一つの能力「シフト」はオブジェクトや魔物を掴むことで自由に移動させることのできる能力です。こちらは使い方として大きく2つあり、ひとつは掴んで移動させることでギミックを解いたり、魔物の動きを封じたりすることが可能です。特に様々な「カリモノ」を用いて戦闘を行う際に「シフト」で1箇所に集めたり、そもそも魔物を「カリモノ」の方に寄せたりなど、自由な遊びを可能にします。
二つは掴んだオブジェクトに動きを委ねるという使い方です。例えば、左右に動くリフトなどに対してシフトをして、動きを委ねることでリフトの動きに合わせて他の足場などに移ることができるようになります。こちらも壁を登ることが得意な魔物にシフトして、登るのに活用したりなど、想像以上に様々な活用法が用意されています。
「シフト」は単一の能力というよりは「カリモノ」の可能性をより広げるものとして非常に有効であり、その組み合わせは無限の発想を生み出してくれます。その一方で、ダンジョン探索やボス戦などにおいてはやや「シフト」を活用する場が多かったのは気になったポイントです。
本作ではプレイヤーが「カリモノ」を入手していなくてもストーリーを進行できるように、ダンジョンなどでは「シフト」を使って乗り越えられるように設計されています。とは言え、このギミックはどうやって「カリモノ」を活用しようとか、ボスにはどの「カリモノ」が有効かななどと考えていると、「シフト」であっさり攻略できてしまう場面が多く、もう少し「謎解き」の幅や自由度が欲しかったところです。
2Dゼルダ史上、最大の探索
続いてもう少し詳しくハイラルでの探索要素についても紹介しておきます。先ほども紹介したように本作の舞台「ハイラル」は『夢をみる島』の8倍にも及ぶ広大なフィールドとなっています。基本的なマップのデザインや位置関係などは『神々のトライフォース』を踏襲していますが、上は大雪が降るフィローネ湿原から下は一面砂で覆われたゲルド砂漠など、多様なフィールドがプレイヤーを待っています。
併せて、フィールドの各所にはハイラルの住民と交流を行うサブチャレンジやアクティビティ、探索を行える洞窟などが用意されています。サブチャレンジは一般的なタイトルでいうサブクエストのようなものとなっており、住民の代わりに猫を探してあげたり、シリーズお馴染みのカカリコ村でニワトリを集めたりなど、様々用意されています。これらは非常に小さな遊びばかりではありますが、テキストもしっかりと用意されているので、「ハイラル」の地で生きる人々の様子を感じることができます。
また、アクティビティは乗馬によるフラッグレースやどんぐり集め、スタンプカードなどバラエティ豊かな遊びが多く用意されています。思わずハマってしまうものから少しくだらないものまで、ゼルダのミニゲームっぽいと感じる手触りの良いものに仕上がっています。
そのほかにもフィールドの各所に設置された洞窟は2D横スクロールを採用したものも多数用意されており、『夢をみる島』などと比べても地続きのように2D横スクロールが用意されているのでシームレスな体験が実現しています。
また、探索の中では手に入った素材を活用して回復アイテムなどを作るスムージ、裂け目を攻略することでトリィのコストを増やしたり、剣士の力を高める力のかけらなど、様々な強化要素や収集要素も用意されており、隅々まで遊びが用意されています。
知っておきたい・気になったポイント
・ボリュームや難易度について
最後に知っておきたい・気になったポイントについて紹介しておきます。まずはボリュームや難易度についてです。ボリュームに関してはストーリークリアとサブ要素を一定程度プレイして25時間でした。ゲームとしてはサイド要素が充実していることもあり、ストーリーを一直線で進めていくだけであれば、15時間程度でクリアすることも可能かと思います。近年の『ブレスオブザワイルド』や『ティアーズオブザキングダム』など、オープンワールドを採用した3Dゼルダと比較するとコンパクトな作りではあります。とはいえ、コンパクトなゲームの中で2Dゼルダの魅力はしっかりと詰まっているので満足度は高い体験となっています。
また、難易度に関しては『夢をみる島』などのシリーズと同様程度の難易度設定となっています。終盤にかけて「カリモノ」や「シンク」を効率よく使用する必要がある場面などもありますが、2Dゼルダをプレイしたことのあるユーザーであれば問題なくクリアできるかと思います。
・煩雑さが目立つUIについて
最後にすでに多くのユーザーが指摘しているUIについても触れておきます。先ほども紹介したように120種類を超える「カリモノ」が用意されています。ゲームではこれらの「カリモノ」を活用することで、様々なオブジェクトを組み合わせたりなどプレイヤーの自由な冒険を行うことができます。
その一方で本作では「カリモノ」を選択する際、120種類が一列に並んでいるというやや使いづらいメニュー画面となっています。一部、よく使う順や入手した順など列を変更することはできますが、お気に入り機能などは用意されていません。
もちろん、決まった「カリモノ」を登録できるようにしてしまうとそればかり使ってしまいゲームの醍醐味である発想を楽しむという遊びが阻害されるのを危惧した配慮とも言えます。ですが、ダンジョンなどにおいては基本的に崖や遠い足場を移動する際に「カリモノ」を使うことが多いです。その中で急に今まで使っていなかったものをギミックとして使用する際に100近いアイテムから選択するのは少し遊びづらさを感じてしまいました。
また、「夢をみる島」でも同様の課題を抱えていましたが、フレームレートに関しても重たく感じる箇所が多かったように思います。任天堂ははあまりアップデートを行いませんが、本作に関してはもう少し利便性を意識したUIへのアップデートに期待したいです。
結語
いかがでしたでしょうか。
新アクションとなる「カリモノ」や「シンク」はユーザーの発想を重視しており、想像以上に自由なゲームプレイを楽しむことができました。併せて、『ティアーズオブザキングダム』の「ウルトラハンド」などと比べても複雑さがなく、誰でも理解しやすいのは 2Dゼルダを採用したからこその魅力と言えます。
一方で、実験的な作品でもあるため、使用する「カリモノ」が限定されたり、UIの使いづらさが目立っていたりなど気になる箇所もあります。特にダンジョンのギミックが「シンク」に頼る場面が多かったのは少し物足りなさを感じたことも事実です。
とはいえ、『ブレスオブザワイルド』を初めとして3Dゼルダの進化に対して、少し目立っていなかった2Dゼルダの新たな可能性を見出すことに成功した一作であることは間違いありません。『ゼルダの伝説』シリーズの今後の進化も楽しみにしていたいと思える作品でした。