【クリアレビュー】『Dispatch』戦わないヒーローゲーム!選択とマネジメントで紡ぐADVの新名作
今回は、1月29日にリリースされたヒーローお仕事アドベンチャー『Dispatch』のクリアレビューです。本作は、ヒーローという王道の題材を扱いながらも、視点を「戦う側」ではなく「送り出す側」に置くことで、かなり新鮮な体験を生み出しています。アメコミ作品が好きな方はもちろん、キャラクター重視のアドベンチャーゲームが好きな方にも注目してほしい一本です。
レビュー概要
- ジャンル
- ヒーローお仕事アドベンチャー
- 開発
- AdHoc Games
- 発売元
- AdHoc Games
- 対応機種
- Switch 2 / Switch / PS5 / PC
- プレイ時間
- 約8時間
- プレイ状況
- エンディング到達
良かった点
気になる点
『Dispatch』とは
まずは『Dispatch』の作品概要から見ていきましょう。本作は、カリフォルニアのインディースタジオ・AdHoc Gamesによるアドベンチャーゲームです。スタジオとしてはデビュー作にあたるタイトルですが、数多くのゲーム・オブ・ザ・イヤーにノミネートされ、発売からわずか3ヶ月で300万本以上を売り上げるなど、大きな成功を収めています。 なぜ、デビュー作にしてこれほど大きな成功を収められたのか。もちろん、高いクオリティが一番ですが、その背景として、スタジオの成り立ちも挙げられます。というのも、AdHoc Gamesは、同じくカリフォルニアに拠点を置いていたTelltale Games(テルテール)の主要メンバーによって設立されたスタジオです。Telltaleではこれまで『The Walking Dead』(2013年)や『The Wolf Among Us』(2013年)といった物語重視のアドベンチャーゲームを手がけ世界的に評価されてきたスタジオです。様々な事情から2018年にスタジオは閉鎖されることになりましたが、『Dispatch』はその流れを汲むチームによる第一作となります。
そんな物語重視のスタジオが手がける作品として、『Dispatch』も濃密な会話劇とキャラクター主導のドラマ、そしてプレイヤーの選択によって分岐していくシナリオに特化した作品に仕上がっています。舞台はヒーローやヴィランが日常に溶け込んだ架空のロサンゼルス。プレイヤーは、元ヒーローのロバート・ロバートソンとして、街で発生するトラブルに仲間を派遣しながら、さまざまな事件や人間関係に向き合っていきます。 国内のゲームファンの中には、「ヒーローもの」と聞くと、どこか距離を感じてしまう方もいるかもしれません。ですが、本作に登場する人々は一般的な「ヒーロー像」とは少し異なります。後ほど詳しく見ていくように、ゲームでは、ヒーローの華やかな活躍だけでなく、職場での組織運営といったマネジメント的な役割、キャラクターが抱える憧れや葛藤を元ヒーローである主人公の視点から丁寧に描いています。こうした要素によって、本作はある種の「お仕事モノ」の連続ドラマを見ているような読後感を味わうことができます。
元ヒーローの中間管理職としての再出発
続いて、シナリオについてもう少し詳しく見ていきます。『Dispatch』の舞台は、ヒーローとヴィランの存在が日常に溶け込んだ架空のロサンゼルスです。主人公ロバート・ロバートソン三世は、かつて強力なロボットスーツを身にまとい、「メカマン」として名を馳せた伝説的ヒーローの一人でした。しかし、ある事件をきっかけに、彼は第一線を退くことを余儀なくされてしまいます。本作の物語は、「ヒーローを引退せざるを得なくなった中年男性」の再出発から始まります。 そんなロバートに手を差し伸べたのが、現役ヒーローのブロンド・ブレイザーです。彼女はロバートに、ヒーロー派遣会社SDN(スーパーヒーロー・ディスパッチ・ネットワーク)でのディスパッチャー、つまりヒーローたちのオペレーターの仕事を提案します。仕事内容に迷いつつ、後のないロバートはその誘いを受け、SDNに所属。ヒーローを現場へ送り出すディスパッチャーとして、新たなキャリアを歩み始めることになります。
しかし、新しいキャリアに夢を見たのも束の間、ロバートに割り当てられた「Zチーム」は、元ヴィランたちで構成された、文字通りの問題児集団でした。投資詐欺の前科を持つ頭脳派のコウモリ男・ソナー、敵の急所ばかりを狙う怪力男・パンチアップ、失恋を引きずり抑うつ気味のエイリアン・フェノママン、そしてまともな会話すら成立しない粘土と岩でできたゴーレムなど、いずれも一癖も二癖もある連中ばかりで、ロバートの指示に素直に従うはずもありません。基本的にロバートのことは舐め切っていますし、下世話な話を繰り返し任務を真面目にこなす気なんてさらさらありません。元ヴィラン連中を押し付けられるロバートの姿には、どこか中間管理職としての悲哀を感じるほどです。 ここまで見てきたように、『Dispatch』の舞台はヒーローやヴィランが存在する非現実的な世界です。しかし、そこに生きる人々は良くも悪くもきわめて人間的であり、ロバートが抱える悩みや葛藤は現実にも通じるリアリティを持って描かれています。プレイヤーはロバートとして彼らの派遣任務をこなしながら、さまざまな局面で選択を迫られていくことになります。本作が描くのは、万能で成功が約束されたヒーロー譚ではありません。失敗し、遠回りしながら、自分の居場所を探していく、そんな「人間らしいヒーロー」たちの物語です。
ストーリーパートとディスパッチパート
セルルックで魅せるストーリーパート
続いて、ゲームプレイについて見ていきましょう。『Dispatch』のゲームプレイは、大きく二つのパートで構成されています。ひとつは映像の通り、リアルタイムに進行するアニメによるストーリーパート、もうひとつは各地で発生するトラブルにZチームを派遣するディスパッチパートです。 まず、ストーリーパートですが、基本的には一般的なアドベンチャーゲームのようにムービー主体で進行する構造です。ただし、本作ではキャラクターを直接操作する場面はなく、表示されるのは軽めのQTEと選択肢にとどまっています。そのためストーリーパートは、体験としては簡易的で、物語に特化した構成になっています。提示される選択肢も、その場の感情や態度を表すものから、キャラクターの関係性を左右するものまで幅広く用意されており、プレイヤーはその都度ロバートの「あり方」を選び取っていくことになります。 また、映像を見ても分かる通り、本作の魅力のひとつとしてアニメーションパートの完成度の高さが挙げられます。背景美術の一部を除き、基本的にはフルCGで構成されていますが、セルルックならではの質感が非常に心地よく、QTEと映像演出の連動感も高い完成度で仕上げられています。丁寧に作り込まれたカット割りや演出、テンポの良い会話劇が相まって、一本の連続ドラマのような没入感を生み出しています。 ちなみに、分岐について一点補足しておきますと、物語は選択肢によって分岐し、展開やキャラクター同士の関係性が変化していく構造です。ただし、物語の軸やテーマそのものが大きく変わるタイプではなく、選択の積み重ねによって関係性や結末への到達の仕方が変化していく設計となっています。方向性としては『The Walking Dead』や『Life Is Strange』に近く、『Detroit: Become Human』や『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』のように前提から大きく分岐するタイプではありません。
Zチームの理解を深めるディスパッチパート
続いて、ディスパッチパートについて見ていきます。 ロバートの実業務にあたるディスパッチパートは、本作のもうひとつの柱として機能している要素です。感覚としては「ロサンゼルス全体を舞台にした簡易的なタワーディフェンス」に近く、PC画面上に表示される各地のトラブルを確認し、Zチームのメンバーを派遣して対処していきます。各トラブルには必要とされる能力や対処法が設定されており、メンバーそれぞれの得意・不得意を判断しつつ適切な人員を送り込むマネジメント力が求められます。 加えて厄介なのが、派遣対象が元ヴィランで構成されたZチームである点です。現場で新たなトラブルを引き起こしたり、メンバー同士で衝突したりと、火に油を注ぐような状況も少なくありません。その混乱のなかで冷静に判断し、最善の選択を積み重ねていく体験は、まさに中間管理職として現場をマネジメントするロバートの立場そのものです。 ゲームとしての規模だけを見ると、このディスパッチパートはコンパクトですし、どうしても単調な面も否めません。とはいえ、ミッション中もZチームのメンバーたちは、絶えず会話を続け、互いに煽り合い、ときにはロバートを巻き込んで騒ぎ立てます。その様子はコメディドラマのような楽しさがあり、同時にキャラクターへの理解と愛着を一気に深めてくれます。 全体として、ゲームは8チャプターで構成され、各チャプターはおよそ1時間前後。ストーリーパートとディスパッチパートは、それぞれ6:4ほどのバランスで展開されます。ストーリーパートでキャラクターのドラマと選択を描き、ディスパッチパートでその日常と仕事を体験させる。二つを往復する構造によってプレイヤーはキャラクターに強い愛着を抱けますし、物語とゲームプレイが結びつく「ゲーム体験」としての魅力を強く感じられる構成となっています。
ローカライズについて
続いて、気になるローカライズについて見ていきましょう。 まず、翻訳全体の品質についてですが、会話のテンポ感の良さ、Zチームの個性がしっかりと伝わるテキストで、全体としては自然で分かりやすいローカライズに仕上がっています。一方で、ごく一部ではありますが、選択肢の文言から「その選択が具体的にどのようなニュアンスを持つのか」を読み取りづらい箇所も見受けられました。分岐のあるアドベンチャーゲームにおいて、選択肢の意図の明確さはプレイヤー体験に直結するため、今後のアップデートなどでの改善に期待したいところです。 もう一点、表現面で触れておきたいのが、一部シークエンスにおける「黒塗り」処理です。ここまで見てきてもわかるように、本作には成人向けのユーモアやロマンス描写が含まれています。特に、映像上でそれらの要素が表される場合、箇所に合わせて黒塗りで覆われる形になっています。中でも序盤に登場するヴィラン・トキシックが下半身を露出しているという設定のため、冒頭から黒塗りが登場するので、色んな意味で不安に感じるユーザーも多いと思います。 ただし、全編を通して見ると黒塗りのシーンはそれほど多くなく、体感としても10シーン前後に収まっています。トキシックに関する規制も、作品全体のトーンを踏まえれば個人的には大きく気になるものではありませんでした。一方で、シナリオ上重要な場面やキャラクターの感情表現に関わるカット、中指を立てるような象徴的な仕草も黒塗りされているのは残念に感じる点です。ギャグやサービスシーンは黒塗りでも許容できますが、物語に関わるパートは、黒塗り以外の処理も検討していただきたいです。 とはいえ、総じてローカライズは高水準にまとまっており、いくつか細かな改善余地は感じられるものの、作品の魅力や物語体験を損なうものではないと感じました。
ポジティブ・アクションとしてのヒーロー譚
最後に、個人的に印象に残った物語のポイントについて触れておきます。 題目にも描いていますが、それは、本作が「ポジティブ・アクション」をヒーロー譚として体験させた点です。「ポジティブ・アクション」とは、社会的・構造的な差別によって不利益を被ってきた人々に対し、実質的な機会均等を実現するため、一定の範囲で特別な機会を提供するという考え方を指します。 その是非はひとまず置くとして、『Dispatch』において、元ヴィランたちは「セカンドチャンス」を与えられた存在として描かれます。能力主義だけで選別するのではなく、リハビリや社会復帰を優先する是正措置として、SDNに雇用されているのです。そもそもZチームのメンバーたちも、それぞれが社会の中で「扱いづらい存在」とされてきた背景を持っています。実際、中盤でインビジガールが語る「こんな犯罪者向きの能力でヒーローになんてなれるわけがない」という言葉は、現実社会での生きづらさと、それでもなお自分の価値を見出そうとする葛藤が重ねられています。本作は、そうした特性を単なるハンデとしてではなく、能力や役割へと読み替え、チームの中で活かしていく構造を取っています。そして、その彼らをまとめるのが、かつてヒーローでありながらスーツを失い第一線を退いたロバートです。
このような「欠点を抱えた者たちが力を合わせてヒーローになる」という構図は、『ザ・スーサイド・スクワッド』や『サンダーボルツ』など近年のアメコミ映画でも数多く見られるテーマです。完璧なヒーロー像ではなく、不完全な人間たちが支え合いながら役割を見出していく姿には、現代社会の価値観が色濃く反映されている部分もあると思います。 ただし『Dispatch』の面白さは、このテーマを物語として描くだけでなく、「マネジメント」という立場からプレイヤー自身に体験させている点にあります。ストーリーパートでドラマと選択を描き、ディスパッチパートで実際に運用させる。ステータスとして数値化された能力と、物語で描かれる人格が結びつくことで、キャラクターへの愛着と責任感が自然と生まれていくのです。 テーマ自体は決して目新しいものではありません。しかし、「スタートラインの異なる人々が社会の中でどう機会を得るか」という「ポジティブ・アクション」の思想を、スーパーヒーローというメタファーとゲームプレイの構造によって体験させる点に、本作の独自性があります。落ちこぼれた者たちの再起の物語と、元ヒーローの再出発の物語が重なり合うことで、『Dispatch』は、確かな手触りを持ったドラマとして成立しています。
総評
『Dispatch』は、選択型アドベンチャーという形式を活かしつつ、物語とゲーム体験を高い水準で結びつけた一作です。高品質なアニメーションと軽妙な会話劇、そしてプレイヤーの判断がチームや物語の関係性に反映されていく設計は、ジャンルの王道を踏まえながらも確かな完成度を感じさせます。 一方で、選択肢のニュアンスの分かりづらさや、一部表現の処理など、細かな改善の余地が残されているのも事実です。ただし、それらを踏まえてもなお、本作がもたらす没入感や体験の独自性は際立っており、ヒーロー作品としてもインタラクティブなドラマとしても、十分に満足できる仕上がりだと感じました。 かつてヒーローとして活躍したロバートが、新たな立場で人々を支え、仲間とともに再び前を向いていく姿は、プレイヤーの選択によって少しずつ形を変えながら、確かな手触りとして残っていきます。ヒーローという題材を通じて「人生の再出発」という普遍的なテーマを描き出した、印象深い一作と言えるでしょう。